夏休みが始まった

ラジオ体操に子供の姿が増えた。子供について親も来るので広場の密度が高くなった。

運営しているお爺さんたちはいつもの場所から少し離れたところに判子を押す拠点を設けた。

体操が終わるとそこに子供達が集まってくる。

駆け寄って行く子はほとんどいない。みんなちょっと照れくさそうにノロノロと列に並ぶ。

ラジオ体操第二のもうほとんど終盤になって、白い短パンに紺色のTシャツを着た女の子が向こうから歩いて来た。

後ろをチラッと振り返り、不貞腐れた顔で駆け出す。

振り向いた方をみるとお母さんらしき女性と、女の子より小さな男の子がのんびり歩いている。

男の子の首からはカードがぶら下がっていた。

女の子は最後の深呼吸のところだけ動作をなぞって体操は終わった。そこに二人が追いついた。坊やと女の子は何事もなかったかのように列に並びにいった。

寝坊したのだろうか。

「あ、おまえ、いけないんだ、そんなのズルだ、最後だけ来て体操してないじゃないか」

そういう子は誰もいない。誰も彼女たちのことは見ていない。ハンコをもらうとすぐ帰っていく。

この後も塾や宿題や児童館やスケジュールがあるのかもしれない。

自分が子供だった頃。

ツツジ公園と呼ぶ芝生とツツジだけの原っぱに近所の子供が集まった。

下は3歳、上は小学校6年生。大人は数人だった。

毎年小学6年が消しゴムで作った「出」という印を押す。器用な子の判子が欲しくてみんなそこに並ぶ。

体操が終わってもすぐに帰らず、午前中の宿題の時間が終わったらどこそこで待ち合わせて遊びにいこう、僕は今日はプールに行くんだとおしゃべりをした。夏休みも後半になってくると日記帳の天気を見せてくれだとか、自由研究はどうしたかなどと話す。

そのうちに誰かのお父さんが出勤するためにバス停にやってくる。

あ、帰らなくちゃ。

じゃあな。後でな。午後からすっぽり太陽が見えなくなるまで、出たり入ったりしながら遊んだ。

高校野球を見ていた子が途中参加でやってきて試合の勝敗を教える。

「気温、今30度超えたってよ」

「うっそー。」

30度を超えたらもう大騒ぎだった。

水筒持参の子は誰もいなく、それぞれ、時々家に帰って麦茶を飲んだ。

校庭に降る夕立。さーっと降って、濡れたグランドの匂いが好きだった。

今の子達が大人になった時も、その時代の子供達を見て懐かしむのだろう。

あの頃は携帯電話ってあったなあ。小さくていつも持ち歩いて。それで友達と連絡とったり。

自転車とかあったよなあ。車も地面を走ってた。

その頃もラジオ体操は形を変えても残っている気がする。