朝、起きてきたら台所の小さな机にお粥のレトルトが置いてあった。
息子だ。
昨夜は昼過ぎに起き、夕方から買い物に出掛けて行ったので、夫と先に夕飯を済ませ、私は先に寝た。
彼が家を出た時、私は家にいなかった。黙って家を出たので「あれ」と思ったのかもしれない。
二人に冷麺を作って自分も遅れた昼ごはんを食べた後、タブレットでソリティアをしていたが、突然、不貞腐れた気分になって街に繰り出したのだった。
このところ胃がいたい。バイタルチェックのできるアプリで測ると「大丈夫ですか、すぐにドクターのところに行きましょう」と出る。
標準値を何度測っても大きく外れるのでそう警告が出るのだが、これは機械が基準値超えたらこのメッセージを表示すると仕組まれているからで、私個人にはよくある数字だ。
それでもやや、負荷がかかっていたのかもしれない。テンションが上がらない。
そんなにどんよりしていたつもりはなかったが、鋭い。
二階の部屋にこもっている二人に声をかけずに家を出たのも、何か感じ取ったのかもしれない。
感じ取るなら夫が感じ取れ。息子に心配をかけた。ちくり。
お粥を息子が買ってくるとき。
それは小学生の頃から始まる。
模試に出かけた帰りにポカリスウェットを買ってきた。
思えば倒れる前からそんなふうに彼の心をざわつかせてきたのだ。
中学に上がると同時に「今夜覚悟してください」と恐怖を味わい、以来、私がしんどそうだと感じるとお粥を黙って買ってくる。
「もう元気になったから、大丈夫だよ、お粥は」
と言ってみた。
「そうか。いらないな。じゃあポン菓子にするな」
最近はスーパーで自分のビールやポテトチップスを買ったついでに、人参の形をしたセロハンに包まれた甘いポン菓子をごそっと買ってきてくれるようになっていた。
久々のお粥に、母は反省する。
街に飛び出して歩き回ってくる以外に何か、自分の気持ちを整える手立てを身につけよう。
心を整え、体調を整え、機嫌よく。
低俗でもいい。ご機嫌に生きるのだ。