ドラマでも本でも映画でもこれは面白いよと話題になっていても自分には響いてこないことがある。
「みんなが良いと認めたものだから理解できないのは受け手の柔軟さがない」
母はそういう。確かに。大勢の人がいいという何かはなんだろうという素直な気持ちが足りないのかもしれない。
あ、私こういうのダメなんだ。そうやってシャットアウトしている。確かにそういうところがある。
ホラー、SF、殺人、官能。一部を除いたアニメ。
息子の仕事がエンタメ関係なのでアニメは彼との会話の中でちらほら観るようになった。
日本全国のファンを敵に回すのを覚悟でいうが、新海誠監督の作品も「必ず観ろ」と言われ、渋々行ったら面白かった。
音と、映像と、話と。実写とは違う半分夢の中のような、それでいて現実とリンクする。
浅い夢を見ていたような不思議な世界だった。
こういう世界もあるんだなあ。
けれど追いかけてまで観に行こうと思わない。
冷めているのだろうか。
じゃあ私が夢中になるのはなんだ。
・・・・人?
ラジオでもテレビでも出演者の人柄を追ってしまう。
この人のこともっと知りたいなあと思うとその人の本を探す。
パーソナリティでもアナウンサーでも、ただの本屋のおじさんでも、作家でも。
ああそうか。だから私はエッセイが好きなのか。
ドラマが好きなのか。
人の心が見え隠れするものが好きなのかもしれない。
漫才が好きなのもおそらくそれが理由だろう。
夫と結婚して驚いたのは対談番組を見ない人がこの世にいるのだということだった。
彼はすぐチャンネルを変える。興味ないのだ。
私は野球の試合より、その裏にある選手たちの心模様の方に意識がいく。
きっと私たち二人は同じ家で暮らしていてもその頭の中の宇宙は違う景色をしている。
同じ本屋に行って、別のフロアに行くように。
何時にここね、と待ち合わせ、それまでそれぞれの好みのコーナーをうろつく。
二人が落ち合った時、互いに自分が見てきた世界の話もしないから相手の頭の中を知らない。
世の中の面白いと言われているもののうち、半分も付いていけていない。
こんなに近くで何十年と一緒に暮らしている彼のことも、半分すらわかっていないのだろう。
「落ち着け」
このまえ、事故を起こした直後に連絡が入った。その時の声がちょっと早口で事務的で興奮気味だったので電話を切った後、すぐにそうLINEした。
それがすごく嬉しかったという。
私は気が立っているところにそんな言葉は「うるせえ」とイラつくかもしれないが、それでも目に止まれば少しは呼吸が深くなるかもしれないと、不機嫌になるのも覚悟で送った。
嬉しかったんだ。
何をしたら喜び何をしたら機嫌がいいか、だいたい把握しているつもりでいたが、傲慢だった。
私のことを何もわかっていないと怒るのも、傲慢だということだ。
あれ、今日は何を言いたかったんだろう。
えっと、まあ、そういうことだ。