勝利

レースのカーテンを2枚、洗った。

小さな三角出窓の小さな小さなカーテンを二つだけ、やった。

夫の机の前にある出窓で、ここをいつも閉め切っている。部屋の風通しも悪いし、見た感じ一年中締め切った窓は鬱陶しくて私は気に入らない。主がいない出社日に、黙って全開し、窓を開ける。帰宅した夫はそれを黙って閉める。

顔を合わせても互いにそこには触れない。あえて触れないというよりは水面下の戦いを遊んでいる節がある。

そのカーテンを閉めるたびに手触りが気になっていた。ホコリのまとわりついたような、少し重たくざらっとしたあの感じ。

しかし机には山のように本やら郵便物やら雑誌が積み上げられているのでそれを崩さないようにしないといけない。

窓を開けてカーテンを端に寄せるだけでもヒヤヒヤしている。

おそらく、この山が少しでもずれたり崩れたりしたら、私がそれをもとに戻したつもりでも敵はすぐに言ってくるだろう。

今の所、机には何一つ触っていないので争いは表面化していないのだ。カーテンの埃に関してはいつか本人に取り外させよう。

そう見て見ぬふりをし続けたのだった。

ところがここに新たな思いがけない展開があった。

先日、夫が交通事故を起こしてあまりにあっけらかんとしているので反省の意味を込めて、机の上を綺麗にしろと言った。

「ゲラゲラ笑ってテレビを見てられると、私の気持ちがザワザワするんだよ。少しは机の上と下、掃除しておいで。」

「そうだね」

2階に上がったきり静かだ。コトリともしない。見にいくとベッドでスマホをいじっていた。

「てっメェ」

「あ、今やる今やる」

というわけで机の上にスペースができたのだ。

ちょうど私の膝小僧を乗せて登り、カーテンレールに手が届くくらいのわずかなフラットな場所ができた。

チャンスだ。ここを逃すとおそらく数日でこの表面はまた埋まってしまう。

夫も息子も出社した梅雨の晴れ間。

埃だらけのカーテンを取り外し、レールごと洗濯機に突っ込んだ。

ドロドロした色になった水の中で回るカーテン。

脱水が終わり取り出すと真っ白ないい匂いのふわふわしたレースになった。

鼻を近づけ息を吸い込む。

物干し竿にそれが揺れているのを眺めるのは気分がいい。大仕事したような達成感。

あっという間にカラッと乾いた。これを取り込み、しばし考える。

とりつけるの、やめよう。

このまま布のカーテンだけにしておこう。

日中、出窓にレースのカーテンを引くか、開けておくか問題は掃除選洗濯担当者の圧倒的勝利となるのだ。

昨夜酔っ払って帰ってきた夫はまだこの事態に気がついていない。

今朝、きっと気がつく。

ふふふふふふふ。探すが良い。ふふふふふふふ。