ラジオ体操の帰り、土曜で家族も仕事は休みの気楽さで思いつきで隣の街の全く知らない道を歩いてみた。
大通りから見えるその道は森のような緑の塊が見えていた。どこかの学校だろうか。程よくのんびりした住宅街。いつか歩いてみたいと思いながらいつも時間に追われ、また今度、いつかいつかと眺めていた。
天気も良く、空は優しく青い。足もまだそれほど疲れておらず、財布には千円札が入っている。もし疲れて歩けなくなってもどこかバス停を見つければ帰れるだろう。
何も考えず、本能の赴くまま、知らないエリアに足を踏み入れ進んで行く。
森のように見えたのは大学の校舎だった。
そこを横目に脇道に入る。区の指定する保存樹木が何本も植っている大邸宅があった。大きな門は閉まり、その奥には細い石畳が続いている。その向こうに古めかしい洋館が見えた。お屋敷ってこういうのを言うんだというおごそかな建物の前には黒い車と軽トラックが並んでいた。地主さんか。このあたりにちらほら見える畑は全てこの家のものかもしれない。
臆せず、図々しく門に近寄り、名前を探したが、表札はなかった。
しばらく行くと、和服をリメイクするお店があった。毎週木曜金曜だけやっていると張り紙がある。小さな小さな、ひっそりとした店だ。
里芋の葉っぱが大きく並んだ畑。その横にはとうもろこしが突っ立っている。その横には支柱にトマトが実り、密集している。
懐かしい夏の朝の景色が突然現れた。その横には土の広いグランドの小学校。わんぱく農園と子供の字で書かれた木の看板がかかった畑がそこにもあった。ひまわりとトマト、ナス。
体操服姿で自転車にまたがったポニーテールの女の子がさーっと過ぎていく。
こんな近くにこんな景色の暮らしがあったのか。
20年以上住んでいる街も通り隔てた向こうには、まだまだ未知の世界が広がっていた。それはもうずっと昔から当たり前のようにあったのだ。ずっとずっと前からそこにあったのだ。
知らない初めての道を歩く朝は旅先の朝のようだ。
すれ違う人の暮らしもリズムも街並みも流れる時間も、私の住むあっち側と微妙に違う。
だあれも急いでいない。
とうもろこしと里芋の葉っぱ。
あれ、よかったなあ。