隔世遺伝

息子が酔って帰ってきた。

取引先との食事会でどこかの料亭での改まった席だった。

9時半に布団に入ってうとうとしていると、誰かが大きな声で歌っている。

玄関の扉を大きな音をたててガチャンと閉める。この音は、夫じゃない。夫のドアの閉め方もうるさいが、ちょっと違う。

普段の息子は帰ってきたのかなんなのか、こちらから声をかけて確認するほど気配がない。

誰?

まさか我が息子が大声で歌うキャラだとは信じがたく、夫がまた一人で飲んで帰ってきたのかと思った。

いや、違う。さっき確か夫に寝ぼけながら「おかえり」と言った。

「息子は?」

「今日、ほら、接待」

「あ、そうか、じゃあ門の鍵開けとかないとな」

そんなやり取りをした。

じゃあ、あれは。

ドンドンドンドンッと上がってくる。足音までもが陽気だ。

「酔っ払った〜」

大きな声でベラベラ話す。

ハイボール二杯とカクテル二杯と生ビール一杯飲んだ。俺、酒強いらしい。顔色も変わらないで平然としてるから相当強いですねって言われた。でも気を張ってたからか、別れて電車に乗った途端、回ってきてさ、普段ならそんなミス絶対しないのに気がついたら有楽町線、反対方向に乗ってしもた」

乗ってしもたという言葉使いにご陽気加減が出ている。いいお酒だったようだ。

「お水いっぱい飲んどきなさいよ」

「へーい」

私は酔うとベラベラ喋って寝る。

夫も酔うと寝る。

歌うのか。

死んだ父と似ている。

この騒がしさ、めんどくささ、なんだか懐かしい。