「私ってさ、よく我慢してると思うよ」
相変わらず毎週のように出かけていく夫と二人の夕飯、ビールで気分良くなった私はそう言った。
本当はそんなこと思っていない。
夫が出かけて行くのがつまらないと思うことはあまりない。たまにスーパに一緒に行くとなんだかウキウキして「お出かけした」満足感があるからいない方が嬉しいわけでもないが、いないことに慣れているので、もうそれなりの過ごし方ができている。
一人時間のレパートリーがずいぶん増えた。
退院してすぐの時、病院では不思議と食事が喉を通り完食できた。これをチャンスに摂食障害を治してしまいたいと夫にしばらく週末に定食屋に一緒に行ってくれと頼んだ。
二人で外で食事をしながらリハビリをしていきたいと思ったのだ。
毎週末、そうやって夫婦で出かけることも私の心を癒すだろう。我ながらいい考えだ。
甘ったれで自分中心に世界が回っていると思っていた。
一度死にかけて、今後もどうなるかわからないと言われて戻ってきた自分の頼みを当然、夫は受け入れてくれると疑いもしなかった。
ああ、それはいいね。いいよ、いいよ。そうしよう。そうやって元気になっていこう。
そんな言葉が戻ってくるものだと思い込んでいた。
「え、どうかな。ごめん、2年、待ってくれる」
資格試験を受けたいから週末はそれに充てたいと断られた。
「あ、そうなんだ」
生きるか死ぬかの入院で4ヶ月、夫にも迷惑をかけた。これ以上は頼れない。
梯子を外された寂しさと絶望感。漫画だったらヒュルルルルーっと風が吹き、枯れ葉が舞う。
あれから何度、泣いただろう。
途方に暮れて、納戸に閉じ籠り感情を無くした。
10年経った。
今の私はずいぶん逞しくなった。
自分の感情の責任は自分でとる。自分の機嫌は自分でとる。
結果、夫のあの突き放しが私を強くした。
一人でも大丈夫。二人でも楽しい。
「普通、あの状況で2年待ってくれって言う?2年って言っときながらもう10年ですけど。もう、待たない」
ニッと笑って言ってやった。
「ヒーン、感謝してますう、トンさんにはほんと、感謝してるんだよ」
「口ではなんとでも言えるがな」
あなたのその自由奔放さが私をここまで成長させた。私も感謝しているんだ。
今年一番のひまわり見っけ。