30年代問題

朝の散歩でよくすれ違うおじさんとの短いやり取りの中、最近は寝る時間が早くなって朝起きる時間も早くなった。どんどん1日の経つのが早く感じるという話になった。

晴耕雨読とはよく言ったものでまさにその生活になりつつありますと言うので「そうですね。子育て真っ最中の頃はそんなわけにもいかなかったから、今まさに人間らしいリズムで1日が過ぎています」と答えた。

「でも、あなたはまだ30・・」と言いかけてしばらく言葉を溜めた。

え。30代に見えるっていうの。おじいさんになると、もう若い人の年齢はどれも一緒に見えるのか。でもいくらなんでも30代って。

「30年代生まれでしょ」

ときた。えぇーっ!と心の中で絶叫したが顔は涼しく「いえいえ40年代です」とにっこり笑った。

「あ、それは失礼しました」

「いえいえ」

失礼しましたと言われると失礼なことを言われたようで気分が落ちた。

おじさんと別れてから、ズーンと沈む。

歩きながら計算する。最低でも4歳、年上に見られた。ってことは・・50代後半か。もしかしたら60代だと思っていたのかな。

こっちは勝手におじいさんと若者の会話のつもりでいたが、あちらは同世代のつもりでいたのか。

ケーキ屋のウィンドウに映る自分を見る。この萎んだ頬か。猫背の姿勢か。

ラジオ体操をしながらも頭にあるのは30年代発言。ここに集まっている人たちもみんな、それくらいに私を思っているのか。

ってことはいつもの美容師さんも。歯医者さんも。担当医も。

歳の割には老けてる中年おばさんと見られてるのぉ〜〜〜・・・。

体操が終わってから歩く歩く、歩く。ああ、こんなふうに疲れちゃいけない。疲れたら老けて見える。

散々歩いて疲れて公園の階段に腰掛けた。

ぼんやりバスケットの練習をする本物の若者たちを眺めていた。

くるくるよく動く。入ったり、入らなかったり。ずっとボールをバウンドさせている。

見ていて飽きない。ずっと見ていた。

あ。

頭の中から30年代問題がなくなっていた。

立ち上がり、ドトールにいく。ドトールのトイレの鏡でもう一度自分を見た。

こんなもんか。

そんなひどくないじゃない。まあ、こんなとこだよ。

退院した直後、長い長い闇の時代。あの時、本当にこの世から消えてしまいたいと思っていたくせに、自分が若く見られていないと知りこんなに狼狽する矛盾に気がつきおかしくなってきた。

生きる意欲が湧いてきた証拠だ。

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