投げたボールが返ってきた

夫が帽子を買ってきてくれた。

「散歩にいいと思って帽子を買ったよ」

夕方、飲み会が入ったとの連絡のあと、そう加えて書いてあるLINEがきた。

またへんな趣味の安物を買ってたらやだなあ。

まずそう浮かぶ。あら嬉しいと心弾ませない自分を可愛くないと思う。夫が売り場で選びレジに運んでいる様子を想像して、ありがたく思ってみたりほっこりしたりしてみるが、やっぱり心の底で用心している。期待してがっかりしたくない。

何か買わないとと、目の前にあるもので手っ取り早く済まそうとするからなぁ。

気持ちはあるのだ。

「ありがとう。早く帰ってね」

そう返信をし、待っていたが帰宅は遅く、先に寝た。

翌朝、玄関の靴箱の上に薄いピンクの紙をセロファンの袋で覆ってリボンがついたのが置いてある。

リボン。ちゃんとしたお店で買ったのかも。これは100円ショップのラッピングじゃあない。

中には麦わらのキャップが入っていた。

深めの、今時の、形の。

・・・これは・・・趣味じゃ・・ない。

しかし、誠意を感じる。間に合わせで買ったのではなく、私に似合うだろうと思って選んだのだとわかる。

それを被って鏡を見た。うーん。うーーーん。

そのまま散歩に出た。

早朝の家の前、自撮りで帽子を被ったところを撮影し、送信する。

「帽子、ありがとうございます」

鍔が大きすぎてよけい、痩せこけて見える気がする。デザインも少女チックで恥ずかしい。もっと野球帽みたいのがよかった。

ウィンドウに映る自分は好みじゃないけれど、歩いているうちに気持ちが弾む。

「写真ありがとう。トンさんかわいい」

夫から返信がきた。

この人だけだ。私を可愛いと言うのは。貴重な人間だ。とてもとても貴重な存在だ。