雨上がりの午後

Twitterで見つけた猫に関連する本だけを扱っている本屋が近所なのに気がつき行ってみた。

この地図だけを頼りに住宅街の中にあるその店まで辿り着けるか、ゲームだな。見つからなくてもともとと家を出た。

頭の中でイメージしたのを思い出し、ぷらぷら歩く。

そこはまるで地元の人でも知らないのではないかというくらい、普通の民家のようだった。

きょろきょろしながら歩いていたので偶然、出窓に山積みになっている本が見えて気がついたが、地図を見ながら歩いていては目の前にいたとしても気がつかないかもしれない。それくらい「本当にここに来たい人だけ、どうぞ」という感じでひっそりと、でも「誰でもどうぞ」というのんびりさもある。

裏路地の中にポッとそこだけ童話の世界のようだった。

「お邪魔します」

「いらっしゃい」

それだけ言うとふっくらした女性店員はまた手仕事に戻る。

店内には音楽も流れていない。車の音もしない。客は私一人。

ゆっくりゆっくり猫の物語、猫のエッセイ、写真集、コミック、童話、ポストカードを見る。

ご夫婦二人が交代で店番をしているのかちょうど、2階から旦那さんが降りてきた。

「かわるよ。君が甘やかすから、餌、食べてないよ」

「ちょっといいの出したからね」

飼い猫のことだろうか。奥さんはレジから出てきた。

店内の奥にガラスの引き戸がある。その向こうにも本がたくさん置いてある。

私の視線に気がついたのか、「奥もよかったらどうぞ」と声をかけられた。

いいんですかと聞くと、手の消毒と、中に猫がいるので靴を脱いであがり、扉を閉めて鍵をかけるようにと言われた。

言われたように中に入り、ドアの鍵をかける。

中には猫二匹と私だけ。

鍵のかかった売り場に客だけ放置して勝手にさせるこの平和感、いいなあ。猫が好きな人に悪いことする人なんかいるわけがないというのんびりとした考えが心地いい。

二匹の猫に挨拶をすると「みー」と応えてくれた。「いて、よし」と言われたようで嬉しい。

目当ての本は人気で売れ切れてしまったそうでなかった。

作家の描いたエッセイを一つ、買う。猫のイラストのブックカバーをつけてくれた。

「またどうぞ」

「お邪魔しました」

こんなに静かに本を買ったのは初めてかもしれない。

小さな小さなお家の本屋さん。

夢でも見ていたような不思議な店だった。

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帰り道、なんとなくいいなと思う方の道を選んで進んでいくと住宅街からぱっと緑道に出た。

穏やかな陽光。

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