起きてきたらカレーの鍋は手付かずでサラダだけが食べた形跡があった。
炊飯器の蓋を開けてみると中のご飯は崩れていない。
どこかで飲んできたのだな。それでサラダだけ、食べたのだ。
洗い桶にカレー皿とサラダの皿が入っている。こんなふうにしれっと誤魔化そうとするところが憎たらしい。
このところこういうのが続いている。
あんまりうるさく言ってもなあと知らんフリをしていたが、こう続くと「ふざけるな」という気になる。
メモ帳を切り取り、鉛筆で書いた。
きのうの夕飯も家で食べなかったね。もういいです。すきにしてください。
殴り書きにセロハンテープをつけて洗面所の鏡に貼り付けた。
楽しみ。
どう反応するか、楽しみ〜。
残っていたカレーでもこんなにモヤモヤするのは何故だろう。
彼一人のために肉じゃがを作ったわけでもないのに。ただ、鍋を出してサラダを作っただけなのに。
きっと彼の夕飯をどうしようと考えた時間が軽んじられていることに腹が立ったのだ。
息子なら許せるのになぜ、夫だと許せないのだろう。
何か、息子と違うものを夫に期待しているのかもしれない。
私に兄はいないが、もしこれが兄だったらどんな感じで受け止めるのだろうか。
許しそう。
父だったら。
父に怒るという発想すら浮かばない。
私の気持ちを考えろと言いたいのはいつも夫だけ。
不思議だ。
散歩をしていると携帯がピコピコ鳴った。
起きてきた夫がメモを読んだのだ。
『トンさん昨日はごめん』
ずるい。許す。