母が外出するのに洋服を見せにきた。
昨日の午後からあれこれ組み合わせて着てみてはやってくるを繰り返してきた。いよいよ出かける直前になって「どう」と確認にきたのだ。
もともとセンスがいい人だから、わざわざ私に相談する必要ないのにと思うが、そこは受け止め、手をとめて丁寧に対応する。
「いいんじゃない」ではダメなのだ。
色の組み合わせがいいから、元気よく見えていいと思う。
レースが可愛らしくていいと思う。
ほんと?おばあさんなのにちょっと派手じゃないかしら。
そんなことない。可愛らしいおばあちゃんって感じでいいよ。
このブラウス、もう何十年も前のなの、古くない?
いや、そんなことない。品が良くていいよ。
あ、そ。じゃあこれにするわ。ありがとう。
そのやりとりがあってからの、当日、いよいよ出かける時になってちょっと違う服装で現れる。
やっぱりこれにした。おかしい?
振り出しに戻っている。
いや、いいよ。それも。可愛いじゃない。
これにあの靴じゃおかしいわよね。
いや、いいよ。スニーカーだっていいと思うよ。今日はたくさん歩くんだし疲れない方がいいよ。
そうかしら。そう。じゃあそうするわ。
一旦引込み、玄関からぐるっと回って今度は庭から顔を見せた。
いってきます。
見ると、足にはスニーカーではなく黒いパンプス。
これで銀座を歩くのだ。さすがだ。
楽で着心地がいいのが一番と服装を決める私より彼女の女度はずっと高い。
おかしくないかしら。
素敵よ。お洒落な人って感じ。
パッと表情が明るくなった。
そ。じゃ、行ってきます。
これか。このワードだったか。
お洒落な人って感じがする。
ああ確かに。私ももし言われるんだったら、可愛いとか似合ってるより、お洒落な人って言われたら嬉しい。
なんでだろう。
センスを認められた気がするからだろうか。