母の日である。
私の母は誕生日が5月の初旬なので子供の時から「めんどくさいから一度にして」と本人の希望でずっと母の日と誕生日をひっくるめたお祝いをしてきた。
「あたしカーネーション嫌いなのよね」
子供の小遣いでも買うことのできるお手頃な値段の花を真っ向から拒絶否定するものだから私たちはいつも頭を悩ませる。
「薔薇が好き」と平然と言う。
今にして思えば深く考えず、ただ無邪気に思ったことを言っていただけでそれを買ってこいというわけでもない。
彼女は頭に浮かんだことをそのまま口にしてしまう。そしてそれを聞いた相手がどう考えるかを考えているようでわかっていない。相手が子供だろうと大人だろうと、どこでもかしこでもやってしまうのだった。
ガールスカウトの母親同士の集まりで料理教室をしたことがあった。
一人のお母さんの作った梅のペーストと紫蘇の葉を挟んだ揚げ物が美味しくて、教えて欲しいと言うことになったのだ。
その時、講師役だった人が梅の実を叩いて潰し、味醂と鰹節で味付けしてペースト状にするという説明を丁寧に時間をかけてした。
この料理の肝だ。当然ここに時間を割く。
みんなが黙ってそれを聞いて説明が終わったところでうちの母親が大きな声で発言した。
「あ、これ、桃屋の梅好みでいいわね」
・・・。ここが肝だっていうのに。そばにいた子供の私でもそれがまずいと言うことはわかるほど、その場の空気が一瞬固まった。
当時「梅ごのみ」は発売されたばかりでまだ認知度が低かった。父が気に入って我が家の食卓でブームになっていた。
母はそれを教えたかったのだ。こういういいのがあるのよ、これ便利よと。
しかし、この場合、皆が集まったのはこのフライの中に入っている梅のペースト、どうやっているのということが事の発端なのだ。
そうでなければ、ただ、梅と紫蘇を挟んだ鶏肉にパン粉をつけて揚げればいい。そして教える方もここを、得意になって教えていたのだ。
今でも覚えている。その時、そう指摘された講師役の人は優しく穏やかに、でもちょっと小さな声で恥ずかしそうに言った。
「そうなの。ごめんなさい。私、そういうの知らなくて・・・」
ああ・・。
その日の晩、母は父にこの出来事を話した。
「なんだか悪かったかしら。急に小さな声になっちゃったの」
ケロッと言うのだった。
今年も誕生日には紫陽花の鉢植えを贈った。庭中紫陽花にしたいそうだ。この数年ずっと誕生日は紫陽花、クリスマスにはシクラメンと決まっているから助かる。
そうは言っても母の日。あまり派手にやると「お姉さんがなにも用意してなかったら気にするからあなただけ余計なことしてこないで」と言われてしまうのでここがまた難しい。かといって完全スルーはいじける。翌日友人達に「いいわねえ、私はなにもしてもらえなかった」と電話をしまくる。でしゃばってはならぬ、されど放置もならぬのだ。
コンビニで母の好きなキャラメルコーンがラスクになっているのを見つけた。
それと寝しなにも飲めるようにカフェインレスのドリップコーヒーを買う。
こんなとこでいいかなと、この歳になってもまだ探りつつ選ぶのだった。