夕方から寒気がし、ガウンを羽織っても靴下を履いてもゾクゾクする。
朝から隙間風のような冷気を感じて落ち着かなかった。どこから入っているのだと風呂場から玄関、2階の納戸に寝室と、換気しようと明けていた窓を全て閉めて回ってもまだ寒かった。
5月も連休が明けたと言うのにホットカーペットをつけて毛布を被ってうずくまった。
毛布とカーペットの間に熱が溜まり、腹から伝わる暖かさにようやく落ち着く。頭も痛い。こめかみの辺りをぐるぐるやる。ドラマも本も鬱陶しくてラジオを聴きながらじっと目を閉じて過ごした。
昨夜あまり眠れなかったからか。息子の負のオーラに引っ張られているのか。頭で割り切っているつもりでもやはり影響されているのかもしれない。いや、これは偶然、芝刈りだのなんだの最近少し飛ばし過ぎたのと気温の上がり下がりの激しさに体が疲れただけだ。息子のどんよりで自分のメンタルが弱くなったとここで認めたらたちまち転げ落ちてしまいそうでそれとこれは別と言い聞かせる。
やっぱり少しは関係あるか。今夜は早く寝よう。キッパリ息子を断ち切って寝てしまおう。疲れ切って弱って帰ってきたら母親はさっさと寝ていて机にご飯だけあるというのも味気ないが、寝込んでしまうよりはいい。
一人暮らしをしていればと思えば。許せ。
ファミリーグループのLINEに「お疲れ様です。先に寝るね。ごめん。」と送信して歯を磨いているとちょうど玄関のドアが開いた。息子だった。
・・・・。ただいまもない。やだわぁ。くらいわあ。早く退散しよう。
「おかえりぃ」
「・・・ただいま。」
・・・。
「今日、夕方からなんかかったるくて寒くてさぁ。今日は早く寝るわ」
手洗いに洗面所にきたところにそう言うとサッと振り向いた。
「どうした」
あまりに深刻な表情につい「いや、おっさんが寝室でイビキがうるさくてさ。眠りが浅いのよ、寝不足だわ」と夫のせいにする。
「俺が落ち込んでいるのを母さんに話したからか」
鋭い。
「何言ってんの、あなたの人生の問題でしょ。なんで私が具合悪くなんのよ」
咄嗟に口をでた。
「だいたいね、あなたは渦の中にいて自分じゃ見えないだろうけど、何を言おうとあなたの人生は大丈夫。ちゃんと王道を進んでいます。どこにもそれちゃいないし、幸せな星のもとに生まれています、なんの心配も要りません」
「えーん」と棒読み苦笑いでふざけて返してきたのでさらに付け足す。
「今日、思い出したわ。あなたの父さんも結婚してすぐの時、返ってくるなり「僕もうやだ」って布団被ったことがあったわ。おじいちゃんは会社の愚痴を一切言わない人だったから、あたしびっくりして。なんだ、この男はって。何甘ったれとるんじゃってドン引きしたよ。私も母ねぇ、息子だとつい。夫には厳しいのに。あの時父さんは25だったからちょうどあなたと同じ頃よ。あるんだわあDNAって」
怒るかと思ったら笑っていた。
少し安心したのかも知れない。
私は私で「あなたの人生」と面と向かって言えたことでモヤモヤが軽くなった気がした。
「おやすみぃ。今晩はちゃんと食べなさいよ」
「へーい」
多分、もう大丈夫。私の方は。多分もう大丈夫。