雨の朝

雨の朝。ラジオ体操は休んだ。きっと今頃あの屋根の下で意識の高い数名が集っていつも通りに体操をしているだろう。

わたしは意識の高い人ではない。ちょっとしたことを理由にしめしめとサボりたがるのが本当の姿だ。その怠け者加減をよく知っているからこそ、なにくそと頑張ってきたがもうやめた。

修行僧のように生きるなよ。

父が私に晩年言った。そのとき父本人はまだ病気が治ると思っていた。突然そう言われてどきっとしたのを覚えている。

父自身が自分に厳しく、それこそ修行をしている人のようだった。

その彼が私に似たようなところを感じたのか、ただの雑感なのか、その言葉に深いメッセージがあったのかわからない。

それからいよいよ、もうあと数ヶ月だろうという頃、またこう言った。

「人生なんてあっという間だよ」

返事につまった。みょうに穏やかな表情と口調にどう返そうか頭がくるくる回転する。

「そう?」

せいいっぱい陽気に答えた。

「そう。あっというま」

今度は念を押すよう、向こうで母と遊んでいる2歳の息子を眺めながらゆっくり言った。

あのときの父は、自分の命の終わりを意識していたのだと思う。

あっけなくあっというまだった。

お楽しみをとっておくんじゃなかった。

いっぱい我慢して頑張って、最後に楽しいことをとっておいたのに。

そんな悲しさのような、それも受け入れたような静かな話し方だった。

 

いつも自分はどうだろうと見つめる私がいる。

正しく生きているか。

恥ずべき自分ではないか。

それはいつも常識や世間や目に入ってくる立派な人と比べていた。

誰を見ても自分より立派に見える。

自分がダメに思う。

だから意味なく闇雲に生産的に過ごそうとしてきた。

みんなすごいなあ。

それはそれで置いといて。

 

ここからは私が快適な過ごし方をとことん追求していこう。

自分がなにを好きなのか。なにに夢中になるのか。

とりあえず今日は雨。

ラジオ体操はさぼり。朝から肉じゃがを作った。

ゆっくりご飯を食べたら昨日録画した番組を観よう。

午後は雨がやむ。

そしたら散歩に行ってぐるっと歩いて最後にドトールで本を読もう。