最近の会計は、レジでカード決済することが増えた。
少し前までは見えないところで口座からお金が落ちるのが恐怖で現金主義だったのだが、使う金額は結局変わらない。
カード決済をスーパーの些細な額からでも積み重ねると知らぬ間にポイントが貯まる。これが塵も積もればで気がつくと少額のお小遣い程度になっている。
「カード会社の思う壺だ」と息子は笑うがまんまとその壺にハマっている。
先日、本屋でもこれを使った。
「カードでいいですか」
「はい、音がしたらここに差し込んでください」
ピっと鳴ったので機械の下からカードを突っ込んだ。
画面が切り替わったので抜く。
「あ〜」
「え、ダメだった?早かった?」
「残念、いいです、もう一度」
レジの若いお兄さんは労わるような優しさでそう言った。端末をピピピピっと操作し直し、また私に差し出す。
「いいですよって言ったら離してください。いいですよって言うまではそのままで動かさないでくださいね」
くださいねっていう語尾にも「文明についてきていない中高年への温情」が感じられる。
違う。私は知っているんだ。いつもレジでこれはやっているんだ。やりなれているからこそのミスだ。ユニクロのセルフサービスの会計システムだって使いこなしているんだ。
お兄さんは今何が起きているのか細かく説明してくれた。
システムが反応する前にカードを抜いてしまったからもう一度、やり直したんです。大丈夫、お金を二重に受け取ったわけじゃないですよ。大丈夫。もう一度、やってみてください。
労わられている。
しかし、何となくそれが心地よくて言われるがまま、する。
いかにも機械に不慣れな中年女性を装ってしまうのはこの彼がとてもとても感じのいい青年だったから。
つい、甘ったれた。
「一応、レシートを2枚、お渡ししておきますね。こっちのはさっきので、ほら、金額は取り消しになっています、それでこっちが今のです。ないとは思いますが、口座引き落としの時に二重引き落としになっていたらこれを持ってカード会社に取り消し請求してください。」
そう言ってこれが、こっちで、これがこっちと、わざわざ分けて渡してくれた。
「口座引き落としの日まではどっちも持っていたほうがいいですよ」
夫がこの場にいてそう私に指示したとしたら間違いなく「うるさいな、大丈夫だよそんなの」と口を尖らせ反発する。
若い男の子に親切にされたのが嬉し恥ずかし中年オババは「あ、はい、わかりました。ありがとうございます、お手間かけてごめんなさい」なんてぺこぺこするのだった。