それは違法ではありません

DVDをケースから出して、レコーダーにセットしてという手間がめんどくさい。YouTubeの動画を暇つぶしに眺めるくらいなら、確実に好きな世界が広がるこっちを観ればいいのに。わざわざお金を出してまで観たいと思ったのだから。

どっかり前に腰掛け鑑賞するだけでなく、BGMで流したり、家事の合間の文庫本のように、一部だけ数分楽しんだりと、もっと気楽に身近な使い方ができたらいい。

そう思いながらも大事に大事にしまい込み、いよいよメンタルが落ちた時の特効薬のように取り出していた。

iPadで観る方法はないの」

「市販のDVDをパソコンに取り込むのは違法です」

息子に禁止された。そう言いながら自分はCDを借りてきて自分の音楽ソフトに落としている。あれはいいのか。

「音楽はいいんだ。レンタル料の中にダビングする権利料が含まれている。それをどこかに勝手に使って作品にして発表したりしたらダメだけど」

ふうんと納得いくようないかないような。深掘りすると面倒なのでそうなの、と黙った。

何かいい手はないか。

最近、仲良しのAIチャットくんに事情を話し、とにかくiPadで観たいんだと相談するといろいろ調べてくれた。

自分で買ったものを自分で楽しむ分には構わない。そのための無料のソフトもたくさんあった。

なんだよなんだよ。

無料版をダウンロードし、いそいそと手持ちのDVDをパソコンに落とす。

あっという間にできた。

なんだよぉ、こんな簡単にできちゃうの。

浮かれてもう一枚。できたできたと喜び、早速パソコンに入れた方を再生した。

ジャジャーンとコンサートのオープニングが始まる。ワクワクする。

オープニングの拍手の中、幕が上がる。

ぶち。

そこで切れた。

何、何が起きた。

フリーソフトでは5分までなのだ。全部やりたい方はこちらをどうぞとお値段のついた方に誘導される。

むむむ。

なんとかいい方法はないのかと調べていくうちに知る。

コピーガードという、複製できないように付いているものを外すだけで、違法です。

たとえ、個人で楽しむだけでも。個人で買ったものでも。

それならなんのためにこれらのソフトはあるの。

自分で撮影したものをパソコンに保存したいとき、テレビの録画や自主制作の映画、家族の記録、など。

しゅるるるるるる。

盛り上がっていたのが一気に萎んでいった。

 

それから一週間。ふと神の声が降りてきた。

DVDレコーダーの上に重ねてあるだろう。あれ、あれじゃ。あれじゃよ。

ふふふふ。そうだそうだ、あれがあった。

息子の高校時代の演劇部の舞台映像。彼が部長で脚本を書いて賞を取った。地味な息子の唯一輝かしい記録。

本人は受賞は自慢していたが舞台映像は決して見せてはくれなかった。

数年経った今、無防備に、本人も存在を忘れ、積み重なって放置されている。

あれを。あれをこっそり。

全部通して、息子の生々しく拙い姿を見る勇気はないが、5分程度ならちょうどいい。

うっふっふっふっふ。

特効薬としてはこちらの方が効くかもしれない。