毒を抜く

昨日、イラつく自分を持て余し衝動的に歩いた。

天気のよさと、明日は一日雨だとラジオで何度も聴いていたのとが重なって、今日のうちにと気持ちが逸った。

目的をもたずただ歩く。

目的がないからただまっすぐ、家の前の緑道を進む。途中に小さな古本屋がのどかにあった。

売れ筋とか専門性とかまったくなくて、ただ集まってきたガラクタに近い雑貨もワゴンにのせている。雑誌の付録まであった。昭和のかけらがあるようで楽しい。

そのまままたまっすぐ進む。大きな通りにでた。

ひさしぶりにやってきたら100円ショップだったところは自然食品の店になっている。

ここものぞく。冷凍になっているお弁当や無添加のお惣菜をみつけ、じっくり見る。

ここも買わない。

昼過ぎの天気のいい平日の午後。

この街に住む人たち。保護者会の帰りの小学生のママたちが綺麗な格好で自転車の後ろに、つい最近まで幼稚園生だった児童をのせていく。

駅前の大きなスーパーの前に洋服を売りにきているワゴンが止まっていた。

そこを借りて期間限定の店を出しているのか、売り場はバーゲン会場のようになっていた。

ふらふら吸い寄せられる。

品の良いご年配の奥様が着そうな服。けれど、地味じゃない。

薄い生地でひらひらのついたドレスもあった。こういうのはどういうときに着るんだろう。

社交ダンスとか、カラオケの発表会とかかなぁ。

デニム生地のなんてことのないワンピースがぶら下がっていた。

これなら普段着にいいかもと、値札を探す。その様子に気がついた店番をしていたおばさんが立ち上がるのが視界に入った。

9800円。

手を離しその場を去る。

普段こない大型スーパーがものめずらしく練り歩く。

パンやお菓子も品揃えが近所の店では見かけないものがある。

魚売り場では冷凍の切り身が10切れ真空パックされていた。

「毎日の朝にどうぞ!」と書いてある。これはいいなあ。

ひょいと、それをカゴに入れていく人が意外と多い。

惣菜売り場をのぞき、冷凍食品をチェックし、やっぱり手ぶらで店をでた。

そのまま並行している別の緑道をまた折り返す。

地理的には近所のはずなのにどこか旅行に来ている気楽さ。

急がない。目的もない。知る人もいない。

風が、いい。

浮かれている春の風だ。

なつかしい。

父と散歩をした子供頃のゴールデンウィークの、あの弾んだ感じ。包まれながら歩く。

見慣れたバス通りにもどり、顔見知りの店員のいるコンビニでゼリーともやしを買った。

毒素はすっかりぬけていた。