バカ親参上

担任の先生に会いたいと申し出ると「あ、それはもう」と時間を作ってくださった。

それまでも保護者会や学年集会で学校に出向くことはあったが、先生は私を見かけて目が合うと

「お母さん、本当にすみません、まだ捕まらないんですよ。こちらも監視カメラを設置したりしてるんですけどね、なかなか」

と小声で囁く。そう言われても「そうですか」としか言いようがない。

「お世話様です。どうぞよろしくお願いします」と頭を下げるとスッとそこを去っていく。

刑事じゃないんだから。

先生は窃盗事件を追うデカみたいだ。

 

約束した時間に教室に行った。

靴を隠されたあいつ、という立場は惨めだ。気の毒がって応援してくれる仲間もいてくれるが、今の息子は同情されることを屈辱に感じている。自尊心から家では落ち込んだ様子は見せないが、内心はこたえている。ただ誰の靴でも良かったのだとしても、そこが息子の下駄箱だと知ったうえでやった、ターゲットにしてもこいつなら大丈夫だろうとされたこと、そういうことに傷ついているんだ。靴がないことじゃない。

一気に話した。

先生はどんな顔して聞いていたのか、全く思い出せない。ただ、私一人、ベラベラ話しているのを聞いていた。

「明日から、息子と授業や部活で少しでも関わってくださった先生方にお願いしたいのです。廊下や階段、どこでもいいんですが、息子とすれ違ったりした時、声をかけて欲しいんです。おうっとだけでいいのです。この件について大変だなとかそんな会話じゃなくて、ただ、よっとか、おうっとか。それだけでいいんです。俺たちは味方だぞと、孤独じゃないぞと。ご面倒でしょうが、どうかそうしていただけないでしょうか。地味で目立たない子なのでやりづらいとは思いますが、どうか、お願いいたします」

私にできることは何もない。

ただ、息子にとって少しでも学校の居心地をよくしたい、必死だった。

今振り返るとバカなことを頼んだものだ。自分の子供のことしか考えていないバカ親だ。

それでもその時はそれしか思いつかなかった。浅い、小手先の知恵だったかもしれないがそうせずにはいられなかった。