息子の靴はそれからまた何度か消えた。
先生が「こちらで見張りますからもう、持って帰ることはしなくていいです」とメールに書いてくださった。
「その方が犯人を捕まえやすいので」と言う表現に引っかかる。
犯人って。
けれど靴はまたなくなった。
私がお願いしたのは犯人探しではない。息子のケアだった。
フォローをお願いしますと言うのはそういうつもりだったのだ。犯人を見つけて靴が返ってきたところで。
「うちの学校には信頼できる大人はいない」
すっかり心を閉ざして捻くれてしまっている。そうじゃない。そんなはずない。大人ってそんなに頼りにならないもんじゃないよ。
嬉しかったのは、野球部の子達が一緒になって憤慨してくれ、息子が帰った後も部活の合間に交替で下駄箱を見張りに行ってくれたことだった。クラスの中で大きな声で「靴、またなくなったのかよ」と言われることが初めは嫌だった息子も、それを発端に野球部の中に使命感のようなものが生まれ、見張り活動が始まると、少しづつその様子を笑いながら教えてくれるようになった。
先生の方は、靴にばかり構ってはいられない。
他にも進路指導、保護者会、授業と追われている業務があるのだ。靴は消えては出てきたり、スリッパになったりキリがなくて申し訳ないから要らないと言うのを私が強引に再度新しく買ったりと何ヶ月も事態は変わらなかった。
「警察を入れますか」
先生に聞かれた。お母様がそれを望むならそうしますと言う。
息子にどうしたいか尋ねると呆れたように「いい、それはいい」と答えた。
その通り返事をした。そしてその翌日、初めて息子との約束を破った。
登校してすぐ、彼には内緒で先生に電話をした。
「お会いしてお話ししたいのですが」
もう、モンスターペアレントと思われようがどうでもいい。
自分がこんな行動に出ることに自分でびっくりしていた。