ホットステーション

朝、散歩をしていたら雨が強くなってきた。

家を出る時は霧雨だった。霧雨が小雨に。それがいよいよ本格的な降りになったのだった。

それでもザーザーという激しいものでもなく、程よいお湿り程度なのに気持ちは沈んでいく。

初めから強い降りだったなら、身構えて、そのつもりで出発する。むしろ楽しむかもしれない。

じわじわゆっくりと変化していったことがダメージになった。

そうだ、あそこと思いつきコンビニに入る。ゼリーを買う。

「袋は」

「あ、いりません、大丈夫です」

スプーンを引き出しから出そうとしたので「あ、何もいらないです」と言うと店員の中年おじさんは少し笑顔で「ありがとうございます」と動作を止めた。

そんなやり取りに気持ちが解けた。全く知らない人なのに。コンビニ特有の明るさが、冷えた体と、雨でどんよりした外から入ってきたことと合わさってほっとさせたのかもしれない。

バス停が見えるガラス張りの窓に腰高の木の椅子とカフェテーブルがあった。

窓に面して二人、座れるだけの小さな飲食スペースには誰もいない。

「すみませーん」

奥で事務仕事をしていたさっきのおじさんに声をかける。

「あの、何も食べないんですけど、しばらくあそこで雨宿りしてもいいですか」

「どうぞどうぞ、ごゆっくりしてってください」

さっきより優しい顔だった。

ちょっと白髪があって、ちょっと薄い頭髪。メガネはかけていない。少し垂れ目で、眉はゲジゲジ

ぼんやり腰掛けて窓の外を眺める。

ずっとここに居たいなあ。

傘を刺してうつむきながら歩いていく会社員。学生。犬の散歩。

それらをぼんやりこちらから見る。

行かなくちゃ。

一瞬のワープ。

私も実社会に戻ろう。