夕飯時にカポッときた。
あ。はずれた。
家族に見つからないよう、そっと口から取れた詰め物を出した。
口の中に空洞ができた。歯がない。そっと舌でなぞると結構な面積のような気がして「あぁ・・」と少しだけ落ち込む。
それでも果敢に残りのレバニラを食べ続けた。
もう取れる心配もないのだ。歯茎で食ってやる。
だんだんこうして受け入れ上手になっていく。
昔の私は全てにおいてピリッとしていた。
ちゃんとしていたい。ちゃんとしてるだろうか。ちゃんとちゃんと、ちゃんと。
自分を何か見えないイメージに照らし合わせて、そこからはみ出ていないか確認したがった。
いつ、誰に見られても恥ずかしくない自分でありたいと歯を食いしばっていたように思う。
昨日は寒い雨の日だった。部屋のカーテンレールに洗濯物がずらっとぶら下がる。
ただでさえごちゃごちゃした部屋が一気に所帯染みた。
嫌だなあ。
数年前の私だったら、この光景も我慢できず、風呂場に吊るした。風呂場は浴室乾燥がついているわけでもないので乾きは遅くなる。下手すると生乾きの洗濯物からは雑菌の嫌な匂いがついてしまう。それでも、スッキリした見た目のリビングにこだわって部屋の中に干そうとする夫に「やめて」と言っていた。
ズラッとぶら下がった洗濯物を容認し始めたのはいつからだろう。
毎日必ず掃除機を、床拭きをとムキになるのをやめたのと同じ頃からかもしれない。
だって、一番早く乾くのはここなんだ。風通しもいい。
こんな時だってあるし、そうでない時もある。ずっと雨が降り続けることなんて、ないんだし。
雨は雨なりに。
そんなふうに思うようになれてから、別のところにもこの考えが適用されつつある。
しんどい。
これからずっと毎日しんどいってこともないだろう。できなかったりやりたくないときはそれなりに。
冷凍食品ありがとう。レトルト食品ありがとう。ご飯と味噌汁にお肉を焼くだけでも充分だわよ。
桜も雨で花を半分くらいに落としてしまった。桜も、「え、満開になったと思ったら雨かいな」と無念かもしれない。
「仕方ない。そんな年もある。また来年」
いやいや。そんなことすら思わず、自然に任せて花を広げたり、縮こまったり、散らせたりしているだけか。
案外それが長く咲き続けている秘訣なのかもしれないなあ。
今日も雨。寒くて縮こまる。頭は重いしなんにもしたくない。
私もそれに任せてダラダラ家の中でコミックと海外ドラマでぐうたら過ごそっと。