言い訳

朝から作り置きをしていた。

本当は作り置きなどするつもりはなかった。なかったのに、あんまり鶏胸肉の甘辛南蛮が照りよくさっくりできたので、タッパーに入れたらもったいなくなってしまった。

このまま取っておきたい。

そうなるとジャガイモ4つで作った塩肉じゃがも、細くスライスしたにんじんのラペも、蒸し鶏も、惜しくなる。

せっかく作ったこれらの箱をそのまま崩すことなくしまっておきたい。

子供の頃、プレゼントをもらうと、中身を見て喜んで、もう一度、その包み紙とリボンで綺麗に包装した。

そうすると、また次の日も新品の嬉しさが戻ってくる。誰も見ていないところで一人、リボンを引っ張りわあっと喜ぶのだ。

あれと同じ。今日のところは新品のままで取っておきたい。

鯖を焼いて、残っていた厚揚げをピザ風に、ピーマンの窪みにベーコンとチーズを入れて、一緒にオーブンで焼く。

グラタンの残りを牛乳で伸ばし、シーフードミックスを炒めて入れてスープにした。

それから炊き込みご飯。冷凍してあった舞茸と油揚げを使ってしまおう。

あれだけいい匂いをさせていたのに、結局その日の晩は有り合わせになった。

ペース配分を間違えた。

掃除機をかけてトイレ掃除をしたら足がガクガクしてきた。

本当は今日は古本を売りにいく予定だった。

頑張ればいけるか。

なんで頑張る。やめておこう。できるからやる、は間違いなのだ。

遅い昼ごはんを食べてそのままそこに横たわる。もう動けない。

そこにインターフォンが鳴った。

ヨタヨタ立ち上がる。画面には近所の友人が自転車に乗ってこっちを伺っている。

彼女の話は長い。上がったら帰らない。

・・・許せ。

息を止めてぼうっと画面を眺める。

なかなか諦めない。まだ居る。

あっちとこっちで画面越しに睨めっこ。

やがて自転車を漕いでいった。

今、彼女に「やあいらっしゃい」と言ったらそれは嘘になる。腹の中ではめんどくさいなあと思いつつ、つい笑顔で話すのと、こうして自分の状態が無理だからと居留守をするのとではとちらが不誠実なんだろう。

これからは、後者の私でいく。

本当の自分は我儘だ。

ゴロゴロしているうちに寝たようだ。

目が覚めると夕方6時。部屋は暗い。

母のところのシャッターを下ろしに行く。そこでもつい、愛想よく機嫌よく振る舞う。

戻ってきてからちょっと考える。

「あのさ、3時ごろ、来てくれたよね。ごめん。疲れて寝てた」

嘘のような嘘でないような言い訳を彼女にした。

「買い物帰りにちょっと顔見ようかと思ってさ」

電話口の彼女の声は普段通りだった。

それにホッとしてる自分のいやらしさ。

ずるい奴だ。