春分の日の前に

プラスチックの引き出しの整理第二弾に取り掛かる。

息子の部屋に置いてあるキャスター付きのそこに、自分の机の引き出しにしまっておいた文具やノート、書類、写真などを放り込んだ。

夫が単身赴任に机を持っていくというので、その時使っていた私のものを譲り、中身を取り敢えずのつもりでそこに移動させたのだった。

2年後、夫は戻り、それから早くも4年。机はそのまま夫が使い続けている。

やらねばやらねばと思いつつ、まさかのテレワークで仕事中の現場に入れない。

「週末、あなたの部屋の窓際のタンスの整理をしたい」

「特別に、入室を許可する」。

年末の第一弾で、ごっそりいらないものを捨てたが、判断が鈍り、再度、取り敢えず保留になったあれこれが残っている。

日記や写真、メモ。息子の書いた手紙。大量のルーズリーフとバインダー。

今時、もうバインダーなんて使わない。なんでも大事なものは写真に取ってパソコンに入れている。

それでも息子が学生時代に見当たらないとすぐ買ってきたルーズリーフの用紙、卒論のために買った原稿用紙を捨てるのは忍びない。

まだ使える。

使う予定はないのに使える。

こういうのが困る。

息子のお友達が来た時に喜ぶだろうと取ってあった何かのおまけのシール。

「いい子だからこれあげよう」

25の息子に差し出す。

「いらんいらん」

息子のサッカーチームの役員をしていた時の表彰状の用紙。毎月、今月の頑張った子供を讃えるために印刷した。どこかの幼稚園に持って行こうか。もらっても困るか。なまじ、立派な紙質なだけにこれも困る。

一応、取っておく袋に入れた。

手をつける前は、覗きもしてない引き出しなのだから、見ずにそのまま全て捨てようと意気込んでいた。

簡単だ。全部、取り出して、袋に詰めて明日のゴミの日に出す。

空になった引き出しは台所に持ってきて、布巾やランチョンマットを入れよう。なんていい考え。

それがいざ、蓋を開けてみると見事に揺らぐ。

「買えないものは後で後悔しても遅いから取っとけ」

確かに。

結局、老後の楽しみになるかもしれんと、結婚してから大病をするまで書いていた日記、2歳から小学校卒業まで毎月作っていた息子新聞、ルーズリーフ用紙、表彰状用紙は再度、残した。

バインダーはあまりに大量だったので母のところに持っていく。

「あら、嬉しい。こういうの使うわ。ほら、これ。お姉さんのとこに届いている税金とか銀行とかカード会社の大事な書類、積んであるの嫌だから整理させようと思ってたのよ」

テーブルの隅に山積みになっているのを指差す。

ルーズリーフの用紙は半分こした。

それでも5段重ねの引き出しの4つは空になった。

最後の引き出しは永久保存かもしれない。