毎朝すれ違うおじさんがいる。
朝6時少し前に家を出て、緑道をまっすぐ歩く。
昨年の夏からだからまだ一年も経っていないのだが、ある時から同じ人とすれ違う。
必ず、すれ違う。
初めは互いにただの通りすがりだったのが、毎朝毎朝になってくると意識する。
意識するのだが、深めにキャップを被り、黒いダウンにグレーのズボン、手には軍手で前屈みでズンズン歩く小柄で、がっしりとした自分より年上に感じるこのおじさんが、気難しい人にも見えるので距離を測りかねていた。
あちらもそのようで、ある時からこちらをチラッと見ながら去っていく。
冬。寒い。この時期に毎朝すれ違うと、次第に絆のようなものを感じる。
日が昇る前の暗い道、あちらから小柄で前屈みの姿がやってくる。同じキャップに軍手。
2月。マイナスになった朝。やっぱりおじさんはいた。
思わず、すれ違いざまに会釈をした。すぐ、向こうも返してきた。
それから毎朝、遠くから見えると少し意識をしながらタイミングを待つ。ちょっと恥ずかしいので木を見上げているふりなんかして距離が縮まるのを見計らい、会釈。
だんだんそれに笑顔がついてくるようになった。
「おはようございます」
あるとき、つい、声が出た。
おじさんはキャップを取ってお辞儀をしてくれた。
春になり、だんだんとおじさんの表情も見えるようになってきた。
ちょっと照れくさい。
今朝も向こうからやってきた。
やっぱり照れくさいので桜が咲いたのを見ながら前に進む。
すれ違う、すれ違うぞ。
そのとき。
「だんだん明るくなってきましたね」
おじさんが立ち止まり笑ってそう言った。
「ええ、私もそう思っていました。春ですねえ」
数秒もないやり取りでまた互いに反対方向に進んでいった。
今日、私たちはお友達になった。
春ですねえ。