踏ん切り方

週末、異動願が叶わずズドンと重くるしい空気を漂わせたまま、息子はのそのそと起き、朝食を食べる。

機嫌が悪いわけでも、これみよがしにため息をつくわけでもないが、息が詰まるとはこのことか。

同じテレビ画面を眺め、並んでいるだけでこちらがぎこちない。

中学から高校の頃、こんなだったなあ。

そっと皿を覗く。あ、食べてる。なら、いい。

「行きたくねえなあ」

スケジュールを組んだからとジムに出かけて行った。

いつもの時間を過ぎても帰ってこない。きっとどこかで気晴らしをしているのだろう。

丸の内か、表参道か、新宿か、池袋か、この前は何かを探しに湘南まで行った。

服でも買っているのか、映画を見ているのか。帰宅はきっと夜だろう。

「ただいま」

陽が傾き始めた頃、まだ明るいうちだった。

「おかえり」

早かったね、とも遅かったねとも言わんどこう。

「帰りに氷川さん寄ってきた」

氷川さんとは我が街の氏神様だ。息子のお宮参りもここ、毎年のご挨拶もここ。小さいがどこか厳かな神社である。いつからか息子は受験の時、学科移動の試験を受ける時、節目節目に一人でこの神様に手を合わせてきた。今回も人事異動の発表される前日、ここに拝みに行っている。

「こうなったからには、ここで頑張りますって言ってきた」

「えらいっ!」

嬉しかった。

「その解決法は素晴らしい。そうやって誓いを立てる踏ん切り方、なかなかその発想はないよ。すごいね」

「いや、誓いっていうより、文句を言ったというか。で、散々愚痴って、でもまあ、今のところで頑張りますって」

「それでいいんだよ。神様だって不貞腐れずにやってきたな、ヨシヨシって思ってるよ」

大絶賛する私に照れくさそうに「本当に俺、大丈夫かよぉ」と小さく笑うが、明らかに顔が違った。

晴れていた。

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