眉の手入れをした。
自分でもきっかけがそこでいいのかと思うが、YouTubeでドラッグクウィーン達の対談を観ていた。
彼らの仕草が美しくて見惚れる。話の内容も毒を含みつつ、茶目っ気と知性がある。
大人の女性の一級品を見たような、私の知らない世界のトップを見たような。
ほんわかハッピーエンドの海外ドラマを喜んでいる私には全くの異世界だった。
きっとこの人達のライブに行っても、緊張して楽しめないだろう。けれど何かが惹きつける。圧倒的な自信と強さと威厳。
憧れる。この強さに。全てを吹っ切って乗り越えてきた達観に。
娘時代に眉を手入れしたり、まつ毛をクルンとさせると母が笑った。
「それ以上ややこしくしないほうがいい。」
顔をいじるなと。あなたには似合わないと。やればやるほど変になる。
何をやっても不器用だったから、きっと剃りすぎたり抜き過ぎたりしていたのだろう。
そうか。そうだな。何もこれ以上酷くするくらいならこのままにしておこう。
私の眉毛はいつもふさふさと生えそろい、化粧も下手っぴなのでファンデーションをベタベタと塗るくらいで通してきた。
彼らの何かに圧倒されて思い立ち、洗面所で眉鋏を手に取る。
道具としては持っているがほとんど使ったことがないので、恐る恐る切っていく。
鋏についている櫛で漉きながら余ったところをチョキ。チョキ。多分、これでいいはずだ。
可愛くないなら、尚更、少しでも良く見えるようにしてみたっていいじゃないか。
それがうまくできなくてもやっていくうちにそれなりにコツを掴むかもしれない。
キャベツの千切りのように。煮物の味付けのように。回を重ねることを初めから投げ出すことはない。
まだ、少しは良くなるかも。
乙女か。
50過ぎた女が鏡にひっついて口を半開きにして、自分と睨めっこ。
あんまりやり過ぎてもと、はみ出ているものを切り揃えるだけにし、ついでに産毛を剃った。
クリームをたっぷり塗って、ファンデーションと頬紅、それからまつ毛をクルンとさせてマスカラをつけた。
どうだ。
思ったほど劇的な変化はない。
そりゃそうだ。顔は変わらない。
でも、なんだか嬉しそうな表情をしている。着せてもらったことのないフリフリの洋服に初めて袖を通した子供のようだ。
いろいろやってみていいじゃない。
滑稽だろうと、へんてこりんだろうと。
「おだまりっ。うるさいわねぇ」
あの威勢の良さで突き進んでいきゃあいいんだ。
楽しくなくちゃ。