夜中の2時。夫が寝室に入ってきた物音で目が覚める。
「帰ったの」
「うん、仕事終わってお風呂入った」
「飲んできたの」
「ヒーン、ごめんなさぁい、少しだけ」
「ふーん、約束したのに。あれほど」
「雪止んでたから。もういいかと思って」
「そういうことじゃない。おやすみ」
「トンさーん、トンさーん」
当てつけがましくすぐさまYouTubeの「心穏やかに眠れる周波数」という音楽をあえて大音量で流す。
周波数の何かが作用して気持ちが落ち着くらしい。即効性を求め、ボリュームを上げた。
この音によって私の怒りはおさまり、その音量によって夫は妻の怒りの度合いを推し量り反省するがいい。
ゆったりとした曲に合わせ、さわさわと流れる水の音、その合間にチーンと仏壇のお鈴が鳴るような音がする。
サワサワサワサワ、チーン、サワサワサワ、チーン。
なんとなく、心地いい。静かに目を閉じて眠気を待つ。
ゴー、ゴー、スー、スー、ゴー。
夫の寝息が聞こえてきた。同じ部屋で大音量を浴びた酔っ払いは、心地よい周波数にさっさと反応して深い眠りについている。
サワサワ、チーン、ゴー、ゴー、ゴー。サワサワ、チーン。ゴー、ゴー、ゴー。
・・うるさい。
周波数の音楽を消し、華大さんの漫才に切り替えた。当てつける相手はもう寝てしまったのだから音を大きくすることもない。
耳元で、もう何回も聞いて覚えてしまったネタがいつもの声で聞こえてくる。
気がつくと朝の5時。あれからすぐ眠りについたようだった。二人の漫才は終わっていた。
ゴー、ゴー、ゴーは、スー、スー、スーに変わっている。周波数も大音量も全く関係のない生物。