みんな生きてる

ドトールにいたら若い男の子と女の子が二人、入ってきたようだ。

なんだかさっきから大きな声で盛り上がっているなあと思っていた。グループかと思っていたら男性一人の声なのだった。

丈の短い黒のダウンに黒のパーカー、黒の腰から下の細身のパンツに丸刈りの男性。ダウンのポケットに両手を突っ込み前屈みでカウンターにもたれかかっている。20歳は超えている。

一緒にいる女の子と注文をするのに、何がいいか決まらないのか、決められないのか。どうでもいいのか。

声というより、吠えている感じだった。

突然

「お兄さんの一番好きなもの、二つ作って。任せるから。それで、一つは、お兄さんに。プレゼント。休憩の時にでも食べてよ」

と言うのだった。

いろんな人がいるなあ。

カウンターで接客している店員はひきつっている。すぐ横で若い店長が見ているのだ。若葉マークの彼としてはこれはある意味、試験だ。

「あ、そうだね、一人じゃ、食べづらいか、じゃ、そちらにも。あなたの分もプレゼントする」

隣で硬い表情をしている店長を指して彼は豪快に付け加えた。

一緒にいる女の子は知らんぷりをしている。

「やっべえの来たって思ってるっしょ。大丈夫っすから。ただの酔っ払いですから」

にしても面白い。こんなことってあるんだなあ。

正直なところ、初め、私こそ、やべえの来たぞ、だったのだ。

止まらない彼のワンマンショーが理解を超えすぎていて恐怖心より興味の方が強くなってきた。

内容はわからないが、やたら店員に絡み喋り続けている。

「そう、あなたにお任せ。あなたのセンスで。僕に勧めて。一番美味しいもの。値段はいいから。それを僕とあなたたちの二つ。後で食べてよ。プレゼントさせて」

それってよくドラマでバーカウンターでやってるあれだろう。ここは開店直後の朝のドトール

「変な奴だと思ってるでしょ。大丈夫っす、ちゃんとわかってるから。こういう奴なんで」

言えばいうほど痛々しい。

寂しいのだな。相手にして欲しいのだな。自信を持ちたいのだな。

なぜか、空回りしている彼の何かが私の中にもあるように感じて恥ずかしい。

 

硬い表情だった同世代の店員二人も、こわばった怖い顔から、次第に苦笑いになって対応を手探りしつつ、ポツポツ言葉を返している。

彼らも危害を加える人間じゃなさそうだと感じ取ったようだ。

「ありがと、ありがとねっ。またくっから」

飲み屋を出て行くように彼女を引き連れ黒ダウンの男は出ていった。結局店員たちが、彼の奢りを受け取って売上に入れたかわからない。多分、聞き流して終わりにしたのだろう。

新米と店長の二人が顔を見合わせ一瞬、目で確認しあった。

一緒にホッとして笑うのか思ったら、何事もなかったかのように無表情のまま、仕事を続けるだけだった。

いらっしゃいませ〜。

店長の声がまたのんびり明るいトーンに戻った。

いろんな人がいる。

誰も彼も精一杯なのだ。