春よ来い

外を歩いていると、寒いのに何かが違ってきているのを感じる。

空気の柔らかさだったり、草木の芽吹き始めた、かすかな梅の花だろうか春の匂い。朝陽の顔を出す時間、日の暮れる時間。

尖った透明のガラスでツンツンと突かれながら歩いていた、ちょっと闘いにも似た張り詰めたものが緩み始めた。

立春。今日から春。

まだまだ掴めるところにはきてくれない。お姫様のように、これから三寒四温を繰り返し勿体つけながら、静々やってくる。

何かを乗り越えた気がする。

昨日は体調を崩していたのか、1日中、体に毛布を巻きつけ、ホットカーペットに転がりながら過ごした。

だるい。しかし冷蔵庫にはトンカツにしようと買っておいた肩ロースがある。

なんとか楽に調理できないかと、オーブンで焼くやり方を調べた。

パン粉を焦がし、あとは小麦粉、卵、焦がしパン粉をつけて220度で15分。

やり始めてみたら、油で揚げる代わりにパン粉が焦げるまでフライパンで炒るのだから面倒加減は大差ないのではと思う。

それでも、中までちゃんと熱が入ったか、衣がパリッと油っぽっくないかを気にしなくていいのとコンロ周りの掃除がないのはやはり気楽でいい。豚肉だけでなく他の肉でもこのやり方は使えるかもしれない。姉の好きな鶏のササミだったらもう少し時間を短くするのだろうか。温度を低くするのか。今度、ササミが安売りしているのを見つけたら実験してみよう。

オーブンに入れるときに肉の両脇にブロッコリーと玉ねぎをオリーブオイルと塩で味付けして置いた。

あとは味噌汁とご飯。

簡単だったが、疲れた。

またごろごろくるまって横になる。体調がイマイチでも、やらなくちゃと思うことがなく、安心して寝っ転がるこの瞬間は至福だ。

風呂を洗い、自分は入らず体を拭いて着替えた。先に食べ、先に寝る。

出社していた息子に「ごめん先に寝ます。お風呂、沸いてるよ。」とラインを送っていたら2階で在宅勤務だった夫が降りてきた。

入れ替わりに二階に上がると部屋の空気がコーヒーと芳香剤の混ざったような二酸化炭素だらけの臭いで苦しい。

一度、ベッドに潜ったが、我慢できなくなってきた。もうっと思いながら窓を全開にして布団をかぶる。

そのまま寝てしまったようで今度は寒さで目が覚めた。

ちょうど息子が帰宅したところだった。

「今帰ったよー。先輩に誘われて飲んできた。ジョッキ三杯でフワンフワンしとる」

ご陽気だ。

オーブントンカツ・・・。

「おかえり、じゃあ、お皿、そのままラップして冷蔵庫入れといてね、お疲れさん」

寝ぼけながら思う。

なぜ息子だと「連絡しろよ」とならないのだろう。むしろ、誘ってくれる人がいてありがたい。

夫にもこの柔らかな気持ちを持ちたいのになあ。

なぜか、あいつは腹が立つ。

私の心の中のドス黒いところを引っ張り出す天才だ。

冬も終わり、春が見え隠れしてきた。チューリップもとんがった芽を出している。

私の心もぽかぽか陽気になりますように。