偶然を必然と思ってしまった

道端で不意にラジオから入ってきた曲に泣きそうになった翌日、唄っていた俳優の舞台の配信チケットが発売されていることを発見する。

ラジオ番組名のハッシュタグで、感想があがっていないかとしらべたのだ。

このやり方は息子に教わった。

テレビもラジオも同時進行で感想を呟きながら視聴する人がいるらしい。

私にこみあげたあの感覚をどこかの誰かが同じ想いを発していないかなあと仲間を求めた。

するとその俳優名の繋がりから、舞台の生配信が決定したというのが出てきたのだった。

公演はなんと今日の午後5時。突然の招待状に勝手に狼狽える。

夫も息子も今日は出社だ。きっといつものようにどちらも帰宅は10時を過ぎるであろう。

値段は4400円、手数料200円。税別。

観てみたい。が、この演目をわたしは知らない。上演は3時間とある。それだけの時間、画面の前に集中していることができるだろうか。途中で母が入ってきて中断とか。退屈するとか。目的の俳優は主役ではないが重要な役どころのようだ。出番はたくさんあるのだろうか。主役じゃないならずっと舞台にいないだろう。他の出演者の合間に出てきてバンっと唄って決めるというのじゃ、なんだかもったいない。それにどこで出てくるのかわからないからずっと張り付いていないとならない。

欲しいのは彼が唄っている映像だけなんだ。

散々迷う。迷っているだけでドキドキしてきた。

radikoで泣きそうになったところをもう一度再生して聴く。

やはり、ジンとくる。

どうしよう。一気に見る自信がない。いいか。配信期間中に何度かに分けても。

いつもどこにも行かず家にいるんだ。映画もコロナ感染を懸念して控えてるし。服を買ったりしているわけでもない。一泊何処かに泊まりに行ったと思えばこれくらい。

あれこれ言い訳と理屈をつけて、決心した。

よし。配信デビューだ。今夜は一人、お楽しみだ。

そもそもどうやるのか仕組みからわからない。あちこち読んで、あちこち入会し、いざ。

よし、いくぞ。いっちゃうぞ。

えいっ。

・・・。エラー。あれ、なにか間違えたかしら。

もう一度。えいっ、あれ。ならば、もう一度。エラー。

どうやら、サイトに申し込みが集中しているのだ。配信なら数に限りがあるわけじゃないからどんどん売れる。

結局、二時間後に再トライしてみたが、やはりエラーだった。

迷っていたくせに手に入らないとなると、今日の今日だった偶然に必然を感じ、大きなチャンスを逃したような焦りを感じる。

同時につながらなかったことにホッとしていた。

「残念、また今度。やーめたっ」

諦めることを言い聞かせるため、一人きりの部屋で声に出した。

観ない言い訳ができた。エラーじゃ仕方がない。私は一歩踏み出した。

ほっとしてどっと疲れた。