ふと立ち止まる

ラジオ番組の中でミュージカル俳優の歌声がイヤフォンから耳に入ってきた。

何曲も何曲も流れるのを聴いているうちに、突然何かが込み上げて泣きそうになった。

涙は出なかったけれど。

車がビュンビュン走る道路脇のコンビニの前に立ち止まり、じっと聴く。

いつまでもここにいるわけにいかないと、歩き出す。

自分に酔っているのではなかった。どちらかといえば、感極まった感情をそのまま表現している彼の声の振動に共鳴したのだと思う。

ドラマも映画もどちらかというと淡々としたのが好きだ。

笑いも、ドヤドヤドヤっと早口で捲し立ててくるのより、のんびりクスッと見ていられうほうがいい。

これが、あの、お酒はぬるめの燗がいいって、やつかもしれない。

暮れに台所をしながら聴いていた演歌に落ち着く自分を発見し意外だった。

ああいいなあ。と聞き入った。

時々、ベートベンを聴くようになった。なんだかわからない。ずっとジャズばかり聞き流していたから知識もない。

だが、疲れた時、いい。さっきの道端で立ち止まった歌手と同じで、じんわり脳みそがほぐれる。

そして力が湧く、気がする。

ちょっといい気分になるのだ。

ちょっとだけ。一瞬だけ、気のせいかもしれない。その程度のことなのだが、それを覚えてから、ちょくちょく聴く。

きっとそういうものが私の周りにはたくさんあるのだろう。

目をむけていなかっただけで。

それを感じ取れるほどのアンテナもなかった。

知らないうちに頑張って、知らないうちに傷ついて、知らないうちに歯を食いしばったり堪えたり。

そうやって生きているから、誰かが精魂込めた本物に出会うと何かが緩んでしまうのかもしれない。

それは、やっと自分の足で本気で生きている証ってことかもしれない。

年をとったと言うのか、成長というのか。

成長だ。まだまだ伸び代がある。