かき揚げの日

東京もんはちょっと小雪がちらつくだけで大騒ぎするとラジオでも自嘲していた。

そこにいくと私なんぞ、東京もんの体力ヒエラルキーでは、かなり下に属する。マイナス2度がやってくるとの報道だけで緊張し、それを乗り越えると達成感と解放感でぐったりとする。

昨日は朝食後からそんなだった。

我が家のリビングは天気がいいと冬の午前中、日光が直線で入ってくる。

背中にそれを受け、ゴロゴロしながらiPadを見ていたら瞼が重く重く、眠くなる。

ポカポカとした体。眠気。予定もない。やらなくちゃいけないことも何もない。

「大丈夫」

夫が立っていた。具合が悪いと思われたらしい。

時計は11時になっていた。まだまだ眠れる。しかし午前中が終わってしまうと立ち上がる。

今晩は作り置きの惣菜で丼にすると決めている。なのにやはり台所に立つ。

自己満足と小さな焦燥感と、意味のない「何かしないと」がそうさせるのだ。

人参と玉ねぎのかき揚げをやってみた。

衣にお酢を入れると時間が経ってもさっくりしているらしい。それを試す。

レシピを見ながら粉を測り、お酢、酒、水とボールに入れる。菜箸を油に差し込んで温度の様子を見る。衣を絡めて野菜を流し入れる。

いつも迷うのは油からの引き上げるタイミングだ。

泡がたくさん出ていたのがだんだん勢いが弱くなる。そのころか。野菜によって毎回感じが違う。

ま、生でも食べられるしな、玉ねぎも人参も。

箸の手応えがカリッとしたので取り出した。

よかったのか、これで。いちいち自信がない。いいや、これで。開き直るが、気になる。

それからトイレの掃除をし、買い物に行き、夕方の味噌汁の下拵えをし、昼ごはんを用意し、さあてと、いそいそホットカーペットに戻り横になる。

ドラマを観て、本を読んで、風呂を掃除し、また本を読む。

日が暮れる。

昼間に拵えたかき揚げを指先でツンツンとしてみた。まだサクッとしている。

嬉しい。これで帰りの遅い彼らが温め直して食べてもいい天ぷらができるようになった。

小さく進歩した。

それだけのことで妙にご機嫌になった。