心配ご無用

この寒波の中、母の様子が気になった。姉が一緒に暮らしているから私がでしゃばるのもどうかと思い、様子を伺う。朝のシャッターがいつもより上がるのが遅い。ゴミ箱も出ていない。どうしたんだろう。心臓発作でも起こしていたら。隣の部屋の姉が熟睡していたら。母は狭心症の薬を飲んでいる。

1時間遅れて隣の家のシャッターの上がる音がした。

ああ生きてる生きてる。よかった。

窓際でパソコンをいじっていると誰かが庭から出ていくのが見えた。

姉の出勤だろう。今日はいつもより遅いんだな。

母の生存確認ができたので顔を見にいくのはよした。自分のコンディションを整えるので一杯一杯なものだから、まあ大丈夫そうだし、としている自分が少し後ろめたい。

そっと覗く。スリッパが玄関に綺麗に揃っている。

やだ。お医者さんかしら。買い物なら行ってやればよかった。この寒空、一人で出て行ったかと思うとチクンとした。

コンコン。

夕方4時。実家と繋がる内扉が鳴る。母だ。

「タダイマァ。はい、お土産、昨日、シャッターありがとね」

ヒレ肉ブロックのパッケージに激安!とシールが貼ってある。

「これからの経済と税金についての講義を聞いてきたわよ。おとなしく座って」

豚肉は帰りに寄ったスーパーで大安売りをしていたから買ってきてくれたそうだ。

昨日、姉と温泉施設に遊びに行き帰りが遅かった。日が暮れたので留守中だったが実家のシャッターを下ろしておいたのだった。

「あら、嬉しい。ありがとう」

元気でケロケロしていた。

「ヤンなっちゃう。隣の街の老人会、ふたつ、入れられちゃって。いろいろ参加しなくちゃならないイベントがあるのよ」

今日も付き合いで、嫌だったが我慢してじっと座っていたという。

「来るでしょ、お昼も一緒に食べるでしょって言われちゃうから、もう勘弁してほしいわ」

里芋掘りに誘った従姉妹が強引で困るとこぼすが顔は笑っている。

「これで明日も朝から体操でしょ、もう容赦ないわよ」

そう。火曜、木曜は老人会の体操教室、金曜は吹き矢。その間の温泉施設の講習会。

「今月で渋谷東急本店が閉店するから、週末、閉店セールを見に行こうって。あの人、ほんと、じっとしてないから。しょうがないから。付き合う約束したわよ」

エエェ。週末の渋谷。しかもデパート、バーゲン。人ごみ。コロナ。

「何も週末にしなくても、平日にしたら」

つい、そう言ったらぷっと膨れた。

「だって、今月で終わっちゃうんだもんっ」

だから来週の月曜日か火曜日でもいいのではと思ったが黙った。予防接種も五回済ませているこのコンビ、最強だ。

お姉さんが好きじゃないから作らないけど、時々食べたいなあって思うのよねと、言っていたのを思い出し、鳥の唐揚げを作って3つだけルミホイルに包み、揚げたてを持って行った。

「お高いヒレ肉のお礼にグラム80円の鳥もも肉ですが」

「あらっ嬉しい」

お外でランチにピザを食べてきたなら今夜は無理かも。それなら明日、このままトースターで温めればいいから。

「今夜食べるわよっ、お姉さんは疲れちゃったからお鍋でいいやって思ってたの」

元気で無邪気で・・・可愛い。