同期

ラジオ体操でいつも見かける中年男性がいる。

年齢は私よりやや、若いか、同じくらいか。ふっくらした体型で銀縁の眼鏡をかけている。黙って真面目な顔をしているのに体全体から、おっとりとした人の良さを感じる。

まるでのび太くんがそのまま大人になったような。

一度、夏に彼のそばに可愛らしい小さな女性がいた。化粧気なく、長い黒髪を束ね、ジャージを着て彼を見上げながら話しかけている。

それまで見たこともない笑顔で彼がうん、うんと頷いている。その様子が可愛らしくて、ついついチラチラ見てしまった。

美男でも美女でもない普通の二人が、世界中で一番幸せな二人に見えた。

女性はその一度きり顔を見せない。

「私、朝は寝てたいの」と言ったのだろうか。あの日は彼が「一度でいいからとにかく一緒に行こうよ」と誘って連れてきたのか。彼としては二人で毎朝、一緒に体操をしたかったのかもしれない。

いつも私の隣に立つ。

後期高齢者の多い中で、年代が近いから親しみを覚えるが、話しかけるつもりもない。

体操が終わると右と左にさっさと消える。

それでもたった10分の朝の時間に姿が見えないと、どうしたのかな。寝坊かな。出張かな。コロナかな。とぼんやり気になる。

薄い薄いうっすーい知り合いのような気に勝手になっていた。

今朝、少し遅れて広場についた。もうすでに音楽が鳴り始めはじまるところだった。

急いでコートを脱ぎ、リュックを放り投げ、いつもの場所に小走りでいき体を動かす。

第一が終わり、首の運動をしていると地面にマスクが落ちているのが目に入った。

あれ。さっきはなかった。

私のかもしれない。昨日、右のポケットに突っ込んだ。探る。ない。

いや待てよ。帰って捨てたような。今日のはコートのポッケに入れてある。

私のかなあ。

私のじゃないとしても、私のかもしれないから終わったら捨てよう。自分のじゃないとすると素手で触るのは抵抗があるしなあ。リュックに何か入れてなかったっけ。ティッシュで摘んで・・・それからどうするかなぁ。ここ、ゴミ箱あったっけ。ああ、あそこにあったな、距離がちょっとあるけど、あそこに持って行くか。

グルグル上半身を回す運動をしながら考える。

やがて、第二体操も終わった。

さてとと、放り投げた木の下にあるリュックを取りに行こうとしたその時

「マスク、落ちましたよ」

あののび太くんが、のび太くんの笑顔でそそっと近寄って指差していた。

「あ、やっぱり私のでしたか」

うんうんと黙って頷き、くるっと去っていった。

体操をしながら落ちていくマスクを彼も気になっていたのかもしれない。

私があれは誰のだ、私のかと考えているのと並行して、あ、落ちた、あの人気がついてないみたいだな、あ、気がついたけど拾わない、自分のかどうか思案しているのか、と思っていたのかもしれない。

コンマ、数秒のやり取り。

なんでだろう。お友達になった気がする。

明日から会ったら軽く会釈しようかな。