正月、駅伝を見ていた。
優勝候補だった青山学院が予想外に遅れている。それがじわじわと3位にまで上がってきた。
姉は2日から仕事でいない。母のことだからまた一人、テレビの前で固くなって観ているのだろう。
「やっぱり。青山すごいね。きっとまたハラハラしながら両手組んで画面に齧り付いてるんだろうと思ったら」
笑って声をかけると祈りのポーズをしながら振り返った。
「もう、ヤンなっちゃう、やっと上がってきた」
母はメジャーチーム、ふわふわした動物、ハンサム、スター、つまりわかりやすくキラキラしたものが好き。
優勝候補の常連で、監督自身もメディアによく出ているこのチームはストライクゾーンである。
「よかったね。ここまできたら、まだまだわからないね」
これからの展開では優勝だって狙えそうだから面白くなってきたと言うと、それを打ち消した。
「違うわよっ。もうあの子、あんな勢いつけて走っちゃうから次にバトン渡すまでに疲れちゃって、またどんどん抜かれてくんじゃないかしら」
誰に怒ってるんだか、私を睨む。
ああ、これ。この思想だ。私を苦しめたのは。
「あのね。そうやってなんでもよくない方向に想像するの、およし。想像したってしなくったってなるようになるんだから。案外これがきっかけで底力が出てミラクルを起こすかもしれないよ。」
「だって。あんなに全力出しちゃって」
そりゃ出すだろう。この日に全てを賭けてきたんだ。
「だってじゃありません。その発想で私が大学生の時に二人の男の子とちょくちょく遊びに行ってたら、あなたいつか二人に付き合ってくださいって言われたらどうするのって詰め寄ったじゃない。まだ友達以上恋人未満だって言うのに。私も自立してないもんだから、そうかと思って、告白されてもいないのにもう会いませんとか言ってさ」
「だって結局その通りになったじゃない」
母はふんぞりかえる。
「違います。あれは、自分の頭で考えることができなかった私が、あなたの考えた通りに行動したからあなたの思った通りに物事が展開していっただけです」
言った。
「・・・ふーん」
黙った。
「とにかく。不安のあまり何でもかんでも最悪のことを想像するのよしなさい。物事は起きてから考えればよろし。まだ何も起きていないのに変な妄想するのは消耗しかありません」
「あ、そう」
笑いながらの短い会話の中で、大事なことを言えた気がする。
母のためでなく、自分のために。自分の間違いを清算して上書きしなおせた。
ミラクルは起きなかった。けれど失速もしなかった。