一本だけどんどん季節の先取りをしている。
同じ地面で数メートルも離れていない所にも梅の木はたくさんある。時期になると近所の小さな子供を連れた家族がここで花見をしている。そんな梅林の中で、一人、先をいく。
何が違うんだろう。
栄養も、気候も日当たりもそう違わないのに。
気にしていなかったが昨年もその前もこの木はずっとみんなの先頭を切って咲いてきたのだろうか。
今、どんな気持ちなんだろう。
やった、一番乗り。
あれ、また私だけ。寂しい。また間違えた。
誇らしげにも見えるし、仲間とずれちゃったけれど、仕方ない、ここまできちゃったんだから、もう一気に咲くわと腹を括ったようにも見える。
同じ数週間の開花なら堂々と盛大に咲いてくれると嬉しい。
「同じ親から産んで同じように育てたはずなのにどうしてこうも違うのかしらね」
よく母が嘆いた。
姉の好奇心と成績と読書量に対し、お笑い番組と日が暮れても外で缶蹴りをし、びっくりするような点数のテスト用紙を持って返ってくる妹。
子供の頃の私はそう言われると、心の中で「きっとお姉さんが遺伝子のいいところを全部持っていっちゃったんだ」と真剣に考えた。
時期が来れば蕾がついて花は咲くのだ。
そのことを信じられなくて僻んだ。
結局私の花は地味でパッとしないが、ちゃんと咲いた。
咲くってなに。
生まれた時から咲いているんじゃないか。
季節によって色を変え、開いたり萎んだり、風に吹かれて揺れたり、枯れそうになって剪定してまた元気になったり。
何年も何年も生きて、根を張って、強くなっていく。
小さかった頃の私に行ってやりたい。
おまえもなかなかいい味出してるよ。その線でいけ。そのままいけ。その花も私は好きだよ。