メモ

最近の小さな変化。

夫に照れるのをやめた。どうでもいいこと、例えばお疲れさん、ありがとう。偉いね。すごいね。

思っていても口にするのは三回に一回だった。感じるたびに言っていたらなんとなく、相手のご機嫌とっているような、口にしたら嘘臭くなるような、何よりあの、あの男に対してそんな甘ったるいセリフを言うなんて敗北感というか、小っ恥ずかしいというか。

食事の用意をして先に寝る時、小さなメモ用紙にレンジ温め何分、トースター(これはレンジ不可)4分、などと業務連絡のようなのを書いて添えていた。あるとき、何かの思いつきでそれに音符マークをつけた。それが自分のスマイルイラストになり、次第に文面も変わってきた。

あっためて食べてね、などと、まるで仕事に行くお母さんが留守番の子供に書く手紙のようだ。

これには意外な効果があった。

相変わらず夫のそばにいても必要以上に会話はせず、甲斐甲斐しくお茶を入れてあげたりしない。塩対応の妻である。

「そういや11月の結婚記念日もクリスマスも、なーんにももらってない。息子が幼稚園の時が最後、あれからもらってないっ」

じゃあ何が欲しいと問われれば思いつかない癖に絡む。

「ごめんなさーい、僕はトンさんが一番大事、本当に感謝してるんだから」

「気持ちはいらん、物持ってこいっ」

最悪である。

夫が忙しく外を向いていると、自分を蔑ろにされているように思う。そのくせ自由でいたがる。

その口の悪さと我儘さを心の奥底ではいかんなあと思いつつ、どうしてもやってしまう。

そうすることで彼とのバランスを保っているのだが、あまり上手な方法じゃない。

それをこの落書きメモを書くようになって許せるようになった。

まあこれで敵意はないってことが伝わっている。

夫はそのメモを捨てずに机に残して置いておく。翌朝、私が黙って捨てる。

互いにその小さな変化については何も言わないが、何か柔らかい安定したものが二人の間に流れ始めた。

不器用な夫に照れ屋な妻。