「明日、松飾を取り付けるの、手伝って。12時半か1時ごろでいいからさ」
喉元まで「手伝って欲しいんだけど」「お休みのとこ申し訳ないんだけど」と出そうになったがあえて、手伝って、で切った。
夫にだったら「明日、松飾だよ。」だけだろう。息子だとつい、機嫌を伺いそうになる。
中学の終わり頃から始まった息子の反抗期はトゲトゲしていた。彼が部屋に入ってくると互いの触覚がピリピリ反応し合って、張り詰めた空気になる。
私に強く当たるのは大学に入るとスッと消えたが、それでも学科を移ったり将来のことを考えたり、自分のことで手一杯だったから、家の用事をこちらから頼むのは控えていた。進路については彼に一任するというのを貫いてきたが、一人で人生を切り開いていこうとする姿を見ると、家のことまではと遠慮していたのだった。
シャッターを下ろしてくれと頼むだけでムッとして「俺が?」と返ってくるのが彼。そういう認識でいた。
もう社会人2年目、いい大人だ。庇護する立場でもない。一緒に暮らす、仲間だ。
出社間際の玄関で仕事納めに行く息子に頼んだ。
ちょっとでも面倒がられたら、引っ込めよう。喧嘩しながらやるくらいなら30日に夫とやる。
「しょうがねえなあ。手伝ってやるか。」
「ありがと。10分かそこらで終わるから。助かる」
ほんと?いいの?ごめんねといいそうなのをまた引っ込めた。
「まあ、俺様が、休暇ではあるが。起きてやるか。その時間に」
威張るほどのことでもない。
息子は確かにアップデートされていた。
私の中での彼は大学生のままなのだった。
息子に頼むようになった私も緩く進化したのだろう。
18歳から24歳。
47から53。
2022年も暮れていく。