真っ赤な彼女

朝散歩からの帰り道、向こうから真っ赤なダウンに黒い細身のパンツ姿でサッサッサッサと歩いてくる女性が目に入ってきた。

出勤登校時間の冬の朝、黒やグレー、茶色の多い服装の中、赤いのが向かってくる。

元気な人だな。

・・・母であった。

キリッとした顔つきで、黒いリュックを背負い、若者を追い抜き颯爽と行ってしまった。

思わず振り返る。

ちゃっちゃっちゃっ。音が聞こえるようだ。

チンタラチンタラ。それが私の音だとすればスピードもテンポもまるで違う。

そういえば娘時代、母と夕方、デパートの地下食料品売り場を歩いているといつも着いていけず取り残された。

混み合う売り場の人の波の中、必要なものを買うと早い足取りで進んでいく。姑の待つ家に帰ってこれから夕飯に取り掛かる母としてはさっさと通過したいのに、末の娘はどこかで引っかかり、モタモタやってこない。

「もうっ、鈍臭い人ね、何やらせても」

本気で苛立っていた。

今にして思えば相当、めんどくさい奴だったのだろう、この次女は。

しかし当時の私は必死で怒られないようにと突き進むのだが、どうしても次々に目の前に人が現れ遮られてしまう。

「通路一つ、満足に歩けないのっ」

家に着くまで文句を言われるのだった。

何をやらせても母の期待に沿えない。

恐らく母の求めるスピード感と私の体内時計は根本的に打つリズムが違うのだ。

道端で見かけた母は、自分の母親像と少し違った。

なんというか、強そう。お転婆パワフルばあちゃん。

「私は気が弱くて人見知りでおっかながりだから」

確かにそういう面もある。地震がくると怯え、家の外で物音がすると覗きに行く私を「あなたって強い人ねぇ」と野蛮人を見るかのように呆れる。だから私もそう思っていた。怖がりで引っ込み事案の乙女のような母。

それも母の一面。これも母の一面。

先日、芋掘りに行くところを見かけた。あの時も「なんかすげえのが歩いてくる」と思ったら母と彼女の従姉妹だった。

あの時はショッピングカートを引きながら二人並んで急いでいるからそう見えたと思ったが、違う。

一人でも、なんか、強そうだった。

すごいなあ。

後ろ姿を惚れ惚れ見送る。

我が親ながら、あのパワフルさは憧れる。

私が母の年齢になった時、あんなふうに朝から颯爽と出かけていくようになっていたい。