棚の大掃除をしたとき取り出したものは45ℓゴミ袋二つ、できた。
紙が詰まって重いその袋を、ごみ収集日の朝までに玄関脇に下ろしておくつもりだった。
昨日の夕方、それを思い出したが、なんとなく気が乗らない。
重いんだよなあ。あれ持って階段降りるの、やだなあ。
「納戸(2階)にある大きなゴミ袋を明日の朝、出してくだせえ トン」
夫の夕食のお盆にメモを載せて寝た。
夜中、目が覚める。2時半だった。
階段上から下を覗くと明かりが漏れている。夫がまだ起きているのだ。起きているのか、寝ているのか。降りていった。
起きていた。
「どうしたの」
「あのさ、二階のゴミ袋・・」
「あ、もうおろしたよ。今、玄関に置いてある、大丈夫」
仕事で疲れて帰ってきたところに、重いゴミ袋を出してくれと、しかもメモ書きで頼まれたというのにムッとするでもなく笑顔だった。
「ありがと、じゃ、寝る」
「お疲れさん おやすみ」
お疲れさんは自分の方なのに。
頑張ればできそうだけれど、頼んだ。頼んでいいんだ。
これを甘えだと、ずっと自分を律してきた。
重いからやって。疲れちゃったから、できない。
一人で子供を育てている身であったらどうする。なんとかするだろう。だから甘えちゃいけない。一人でなんとかできるはずのことだ。
そんなふうにこれまでやってきた。
病気のことで夫に迷惑をかけているのだからなるべく役に立ちたい。
健気な心意気のように聞こえるが、よくよく掘り下げてみれば、借りをこれ以上作りたくないむしろ、返して貸し付けたいという傲慢さだったのかもしれない。
もう、そんなことどうでもいい。
できそうだけど、しんどいからやって。
こんな些細なことだけど、自然に言えるようになった自分の変化が嬉しい。
この夫と死ぬまで一緒に暮らしていくことも楽しいだろうなと心の底から思えてくる。
怒って、笑って、拗ねて、頼んでまた笑って、労って。
頼んで頼まれて、守って守られて。