ラジオ体操はよく見ていると小さなグループがいくつか点在してそれが集団になっている。
相変わらず一匹狼を貫いているが、帰り道、呼び止められた。
「おーい、おーい、すみませーん、そこの人っ」
振り返ると先日、名前を聞いてきたおじさんが小走りして向かってきていた。
「あのね、これね。ラジオ体操の詳しいやり方の」
A4の茶封筒を渡された。
前回、自分はラジオ体操2級の検定試験を受けたが失語症で落ちてしまった、統合失調症だから仕方ないんだ、ラジオ体操は奥が深い、簡単なようであれで体全体を鍛えるようにできている、今度あなたにも体操の細かいやり方を書いた紙を持ってきてあげますと言われた。その場では
「いやあ、おこがましい、やっとジャンプができるようになったばかりで、探究なんてまだまだです」
やんわり逃げたつもりだったが、捕まった。
「ハイ、これね」
満面の笑みでイチキさんは私を見つめる。いい人なんだ、この人は。
そして彼もどこにも属していない。あちこちに声をかけ、誰とでも話すところは私と正反対だが、よく見ているといつものお仲間というのはいない。
お茶を持ってきた長老は雨が降っていない日はベンチに腰掛け、何人かの取り巻きに紙コップを振る舞っている。
私の憧れる可愛いおばあちゃんも、体操が終わると数分、仲良し四人組で天気やニュースの話をして一緒に帰っていく。
イチキさんは、いつも噴水の前に立ち、やってくる顔見知りに大きな声でおはようございますと声をかける。けれど誰とも連んでいない。
この茶封筒はどう入った基準で配れているのだろう。
私だけが特別選ばれたとは思えない。この広場に長く通っている人たちの中でこの封筒を手にした人は他にもたくさんいるのだろう。
これは。
これを受け取るということは、イチキさんの何かを受け取ることのような気がして逃げていた。
無意識にそれを感じていたのだ。
「恐れ入ります。拝読します。でも、ごめんなさい、読んだっていうのにあれかよって、すぐには反映されないと思いますが」
受け取った。
いいのいいの、持ってて。あ、それから、ごめんなさい、ごめんなさい、あのね
「ごめんなさい、お名前、すぐ忘れちゃって。何さんだったかしら」
名乗るほどのものではないんですぅ。