金曜日。生協さんの頼んでいた品が届く。
先週の注文時は絶不調で頭が回らず、とりあえずの大根、豚肉、牛乳、卵、豆腐だけにしたが、何を思ったのか暮れの特集で掲載されていた重曹、酸素系洗剤、アルカリ性洗剤の粉の徳用袋をそれぞれ注文した。
今年は大掃除はパスするつもりでいる。この数年、暮れに張り切ってろくなことが無い。
一昨年は心不全を起こし、急に体が浮腫み腹水まで溜まった。
昨年は、転んで足を骨折した。
「今年は何事もなくお願いしますよ。もう年取ると余計な心配したくないの。穏やかに過ごしたいの」
母にやんわり釘を刺された。かたじけない。
その重曹セットが届いたのだ。
おそらくこれからテレビで毎年恒例の大掃除のテクニックでこれらを扱う。
どこそこには重曹を、どこそこには酸素系を、アルカリを。何倍希釈で水に薄めてスプレーするとか、ラップでパックするとか。
それを見て、やってみようかと思った時に、家に材料が揃っていればすぐやれる。
そのためである。
相変わらず足は痺れて、うまく歩けない。
知識だけ入れておこう。どれが何だっけ。
裏面を見る。重曹は酸素系は、アルカリは。
・・・試してみたい。
よせばいいのに、重曹で窓を磨き、アルカリ水でレンジフードとガスコンロを磨く。
腕は痛い。足がもつれる。やめなくては。いかん、せっかく戻っている体調が、やめなくては。
しかし好奇心の方がそれを上回る。酸素系はなんだって。ほう。排水溝に。なるほど。
コップの水に大さじ2杯、シンクの排水に撒いて20分待つ。
その間に作ったばかりのアルカリ水で冷蔵庫やら、レンジ台、洗濯機を拭きまくる。
このアルカリセスキ水が楽しくてたまらない。吹きかけて拭えばツルッと表面の汚れが落ちるのだ。
うっすらとした普段気がついていない皮脂や食材からの積もった膜がなくなると、ピカッと光る。
もっと他にやれるところはないかとスプレー片手に部屋中うろつく。
いかん、いかんのだ。やめないと。疲れてしまう。
20分経った。
排水溝に溜めておいた洗い桶の水を一気に流す。
覗き込んでみたが変化はよくわからない。心なしか、スキッとした空気が漂っている。何か奥の方でいいことが起きているのであろう。
もう、よそう。掃除ハイになっている。実験はここまでだ。
疲れ切って突っ立っているところに息子が降りてきた。
「何してんの。」
「思いがけず大掃除。コンロとレンジフードと冷蔵庫と窓とシンクがほら。」
「よしなさいって。」
私が働くと周囲が怯える。