大丈夫なのだ

金曜の晩、玄関の戸が空き息子が帰ってきた。

9時半。今日は早い。そして静かだ。おかえりと声をかける。

・・・・・・・・・・・。

あ、これは。。機嫌が悪いか疲れているか、傷つくことがあったのか。

いずれにしても何かあったときのアレだ。

即、風呂を沸かし

「お疲れさん。お風呂、沸かしてるから、あったまりなさいね。んじゃ、おやすみ」

と二階に上がった。こういうときは離れるのが一番だ。

夜中、様子を見に降りていくと食事には手付かずのままテーブルの前で眠りこけていた。

よっぽどだな。

朝、ラジオ体操の帰りに餡パンとバームクーヘンを買う。何かあるとすぐ食欲にくるが、これは食べるのだ。受験の時からそうなのだ。

これと昨夜のトマのスープを置いておいた。

「やらかした」

朝食をとりながらポツポツ言う。

「ほう。やらかしましたか」

「やらかした。もう終わりだ」

聞けば先輩の指示通りやったことが後から問題になり、要注意の回覧メールを指示出しをした先輩が部内全員に送信したらしい。

それで息子は青ざめ、もうこの世は終わったと落ち込んでいるのだった。

「なにやらかしたかと思えば。会社のお金を間違って送金でもしたかと思ったよ。まあそうだとしても大丈夫だけど。」

わざと馬鹿馬鹿しそうに答えた。

「あのね、まさか働いている間中、退職するまで一回もミスなしでいこうと思ってんじゃないだろうね。総理大臣だって明石家さんまだって麻生さんだって絶対やらかしながらビッグになってるんだよ。失敗は早いうちに小さくたくさんするのがいいよ、よかったじゃん、学べて。また一つ経験してさ」

縮こまって失敗を恐れて小さくまとまるより、アクシデントや、やらかしを重ねてその度に幅を広げた人間の方が魅力的だ。

無味無臭よりいいと思う。

そう言ってジムに行く息子を送り出したが今度は私が落ち着かず、午後、買い物に出たはずが意味もなくバスに乗り、隣町の商店街をぐるぐる歩く。

商店街の活気をもらい、ドトールで本を読み、かわいい店員さんに癒され私も自身をチャージした。

夜、三人の食卓の空気が重い。夫は翌日の試験勉強にぐったり。息子はやらかしを引きずり無口。

私は盛り上げるでもなく、淡々と食べる。

食後、床に転がりながらそれとなく寝返り後ろを見ると息子がテレビを観ながらヘラヘラ笑っていた。

あ、笑ってる。よかったよかった。

息子よ、この世はそう簡単に終わらない。もっともっと奥深く、楽しいものだよ。