夕方、地震があった。
前触れなく、いきなりあの、鈍い地響きのような嫌な音を立てて揺れた。
おでんの火を止めた。
これはきっとたいしたことではないなと、瞬間思ったが念の為、隣の母のところに顔を出す。
気が強いように振る舞うが実は相当の怖がりなのだ。
あの人が私に辛辣なことを言うのは全て恐怖心と不安がそう駆り立てるからだと最近気がついた。
「震度3ですよ~。大丈夫ですか」
リビングを覗くと誰もいない。テレビと電気がつけっぱなしになっているが母の姿は無い。
2階かな。そう大きくも揺れなかったから気がつかなかったか。それとも葉書でも出しに外に行っているのか。
いずれにしてもわざわざ様子を見に来ることもなかったかと帰ろうとした。
「・・・はい、何か御用?」
姿は見えないまま、くぐもった声がする。
あ、床に寝ながらテレビを観ながらうたた寝していたのか。
「ごめんごめん、寝てたのね、今、地震があったのよ。寝てたの起こしちゃったね」
「起きてたわよ、知ってるわよ。ドンってきたもの。だからここに居たのよ、すぐ、入ったわ、ちゃんと、すぐ、早く」
のそのそ母が這い出てきたのはテーブルの下からだった。
少し怒っているような固い顔をしてこっちを向いた。
「お、えらいえらい、よくできました」
私はテレビを観ながら横になったりしないのだ、うたた寝なんかしていない、そしてこういう時には素早く避難することもできるのだと主張する。
「そうそう、さすがです。心配いらないね。安心安心」
帰ろうとすると
「怖かったわねぇ」
両手を胸に当てて笑っていた。