お出かけの計画

歯医者にやる気満々で行く。

ショートヘアの若い女医さんにも今日は押されない。

むしろ喰い気味。

前回はなんとか現状維持で切り抜けようとするのを、半ば呆れたように説明してくるこの人をおっかなく感じた。

自分が人としてなっていないように思え縮こまった。

が、やると決めたらやるのだ。

私の過去は恥じるものではない。よって私はなんらオドオドする必要もないのである。と、強気になったところでそもそも、先生だってはなからそんなこと思っちゃいない。ただの患者の一人なだけなんだから。

「今日は型取りしますねぇ」

「はいっ、よろしくお願いします。ところで先生、あの大金を用意しておくのはいつ頃でしょう」

懸念事項はもはやそこだけ。目の上にタオルを乗せ間抜けな顔で聞く。

「えー?あぁ、それはまだかなり先のことですヨォ。まず型取って、仮歯にして、それと並行して残っている歯を抜いて歯茎の傷の状態を見ながらですからねぇ、反対側にある詰め物も取れそうだからそっちもやりながら。それからやっとですので」

なんだ、そうなのか。

「次回は仮歯をつけて様子をみます。ちょっと神経触るから痛みもあるけど、必要なら麻酔もしますから」

麻酔とか聞くといよいよという気になってくる。

「はいっよろしくお願いします。そのつもりで来ます」

やたら前向き。やたらはりきる。

よく考えたら半径500メートルから外に出ない私の日常に、バスや電車を使って行く宛ができた。歯医者は等々力だから帰りに二子玉川の大きな本屋にも寄ってみてもいい。

ちょっとワクワクする。

「じゃ、次回予約してまた。」

この先生のことも好きになってきた。