昨夜。

「ただいま」

なんか元気ない。なんかあった声だ。

いくつになっても息子のことは気にかかる。

仕事でミスをしたのか、先輩とうまくいかないのか、まぁでも働いていればそんな日もある。

「おやすみ。お風呂沸いてるよ。お疲れさん。」

なんだよー寝ちゃうのかよーという、いつもの冗談もなく

「あ、うん」

あ、こりゃなんかあったな。

子供の頃はこんなとき、それとなく側にいて、何か言ってくるか待ったが、さすがにもう私は寝る。

明日のラジオ体操のために母は寝るのだ。

「じゃ、お先に。おやすみぃ」

ベッドに潜りこみ、うとうとしかけた頃

「おい、どした、体調悪いのか」。

寝室の扉を息子が開けた。

「眠いだけ。大丈夫」

「そうか。・・・傘、取られた。」

今朝、私が出先で買った500円のビニール傘を持っていっていいよと言った。

鞄に、常に折り畳みを入れているが、玄関を出たら既に降っていた。

取られても、紛失しても気にしなくていいと言ったら本当に持って行かれた。

これか。どんよりの原因は。

ずぶ濡れで帰ってきたわけでもない。コンビニ傘に責任をかんじているわけでもない。

傘がなくなったことはきっかけにすぎない。

きっとこのアクシデントがなにかの追い討ちになったのだろう。

ふんばりは、結構こんな些細なことでバランスを崩す。

「いいじゃない、それで同じビルに出入りするどこかの誰かが風邪ひかずに済んだよ。」

「そうか。」

「そだよ。」

一人暮らしで冷たい家に帰る若者かもしれない。

今日、おろしたての一丁らを着てきた子かもしれない。

病み上がりの人かもしれない。

うっかり傘を忘れた誰かが、やりきれない思いから救われたかもしれない。

「さっさとお風呂に入ってあったまり。じゃ。おやすみ。あ、そこ電気消してってね」

「おいっ寝るのかっ。親子のコミュニケーションはっ」

「も、充分したから。今日はもういいや。大丈夫大丈夫」

「いやいやいや。大事だぞ。コミュニケーションは。・・・じゃ、おやすみ」」

 

暖かくして食べて早く休むといい。

良き明日のために。

 

声は元気になっていた。