昨日、台風による気圧のせいか怠く、とりあえず野菜のたくさん入ったスープを作った。
あとは肉を焼くなり、オムレツにするなりでいい。
私がこんなにしんどいのだからと蒸し上がったサツマイモを持って母のところに顔をだす。
「こんにちは。どう?体調。」
薄暗い部屋でテレビの真前に引っ付いている。
おかあさん。
最近耳が遠い。亡くなった母方の祖母に似てきた。
はい。イタタタタ。
寝違えたのか朝から背中が痛くて身体が回せないという。
お姉さんに湿布貼ってもらったの。
姉は母が老いるのを嫌がる。お母さんはいつまでも現役で若々しくいて欲しいのだ。
それを知っている母が姉に湿布を頼むとは相当なのだろう。
「気圧のせいじゃない?私もだるいもの。」
そういうとちょっと安心したようだった。
台所に戻り、スープのお鍋ごと持って行く。
「野菜整理でたくさん作りすぎたからあげる。」
コンソメだけだから味付けは好きに直してねと、実家の鍋にドバッと移す。
今日は何もしたくないだろう。
「あら、くれるの?」
こんな素直な言葉がでるのは弱っている証拠だ。普段ならそんなのいらない、お姉さんがそれあんまり好きじゃないからとつっぱるのに。
自分の家に戻り、具の少なくなった鍋にもう一度野菜を切って入れながら、ああそうだと床下からもち米まで入った栗おこわセットを取り出す。
赤い半額シールが貼ってある。
レジ脇コーナーで見つけ、やりたくない日に使えると買っておいた。
それを持って再度、いく。
ここでなにからなにまでと、おかずを拵えてはならぬのだ。彼女のメンツが立たなくなってしまう。
その加減がなかなか難しい。
あくまでもちょっと、お助け、くらいがいい。
「ほれ、追加。今夜はコレとスープと卵かなんかでいいじゃない。卵くらいお姉さんに焼いてもらえばいいじゃない。」
「あら。ほんとだ。あらあらありがとう。卵くらい焼けるわよ。」
「それじゃ。おだいじに」
すると廊下まできて言うのだ。
「すみませんね。本来なら私が作って持っていってやらなくちゃいけないはずなのに。」
何言っとんじゃ。
「あのねぇ、もう80を過ぎたら周りに助けてもらっていいんだよ、それこそ本来なら世代交代で私がしっかり仕切らないといけないのに。充分よくやってくれてるよ」
そうですか。ありがとうと答える様子に私は少しだけ、役に立てたと得意になった。
年をとったんだなあ。いよいよ支えてやらないと。
今朝。
あれからどうしたろう。
姉が休みだったらでしゃばってもいけない。出来上がった肉じゃがをもっていくかどうか、迷う。
まずは様子を見にいこう。
「どう?具合は」
「あらあ。もう大丈夫よ。」
寝室のある二階から声がした。寝込んでいるのだろうか。
「あ、昨日はありがと。お姉さんが喜んだわ、栗おこわ。今日もお弁当に入れて行ったわよ。これからね、美容院に予約入っているから。ちょっと見て、この格好でいいかしら」
降りてきた母は白いレースのブラウスにピンクのカーディガンを羽織っている。昨日の負のオーラはどこにもない。
「いいよ、かわいい」
「そう?あ、そうだ、あなた、ちょっとこれ、着ない?私キツくなっちゃって。」
グレーの半袖ニットのアンサンブル。
「普段着にしていいならもらう。お醤油がとんだりしてもいいなら着るわ」
「いいわよいいわよ。着なさい。でもそれ、いいものなのよ」
普段着にしても「いいものなのに」と文句言わないのならと念を押し、お礼を言って帰ってきた。
「少しは綺麗な格好しなさい」
かなわないなあ。