あいつは誰だ

朝、ラジオ体操どうなんだろう。

最近の私はこの時間が唯一のイベントとなっている。

うっすらとした顔馴染みの中で誰の目も意識しないで身体を動かす。

自分はただ、一つの生命体なだけだと感じられ気持ちが解ける。

そしてここさえ押さえておけば、一日が始まり家族に時間を合わせて外出できないことになっても落ち着いていられる。

朝、運動したもんね。

買い物に出たとしても、歩数を稼がなくてはなど考えず、タランタラン気の向くままでいい。

安心してダラダラできる。

雨が小降りになった。

ダメもとで家を出た。

誰もいなかったら一人ラジオ体操してもいい。

広場はやはりガランとしていた。

いつもなら聞こえて来るラジオの大音量もしない。

止んでるのに。やっぱりお年寄りが多い集まりだから今日は中止なんだ。

もしかしたら昨晩のうちに、連絡が回っていたのかもしれない。自由参加ではあるけど、母体は地域の運営で役員も持ち回りの団体なのかも。

なんだか寂しい。

そこに小さく小さくラジオの音が。

あの音楽!

見渡すと奥の屋根のついた休憩所に数人の人影が足踏みをしている。

近づいてみると、まったく知らない顔ぶれが体操をしていた。

小学校の教室くらいの空間に集う彼らは、また別のコミュニティのようだ。

迷ったがそこに混じる。

あれは誰だと二度見されたが、素知らぬふりで体操をする。

チラチラ振り返っていたおじさんもやがてまた、前を向き身体を動かした。

全部終わると彼らは談笑を始めた。

私は軽く会釈をしてその場を去った。

なんだか、ひと皮剥けた気がする。