急に思い立って気になっていた映画を観にいった。
毎朝聴いているラジオでアナウンサーが「すごくよかった」と紹介したのをきっかけに、それに反応して鑑賞してきたリスナーが口々にすごくよかったと投稿するのが続いた。
私の世代にドンピシャの時代設定で、昭和の小学生が「ああこうだったこうだった」と再現されているらしい。男の子二人のひと夏の友情物語という設定は正直そんなに惹きつけられなかったが、長崎の海が美しい、のと、昭和の小学生に惹かれた。
今朝の放送でまたリスナーが「よかったよかった」と言っているのを聴いて、今日、いっちゃおうかと思いついたのだった。
「週末、用事あるの?」
新聞をとってきたところの夫に聞いた。もし空いてるなら彼も同世代だから、ハマるかもしれない。一緒に行ってもいいかも。私たちはめったに映画の好みは一致しない。これは珍しく二人して満足する作品になるのではと考えた。
「あ、今月はずっと忙しいかな。週末も。」
まだ先日亡くなった親戚の家の相続やリフォームが落ち着いていない。このところ毎週それ関係で出かけている。
「ああ。そうか。了解」
そんなら待たずに今日行ってこよう。
朝食の後片付けをしてすぐに時間を調べると午前11時10分の回が空いていた。
すでに9時。ここから3駅のところだから、余裕を見ても40分あればいいだろう。
10時10分に家を出たら40分には映画館にいた。
よかった。
はじめから終わりまで、ずっとキューンとして観ていた。
無駄なシーンはなく、最初から最後までずっとキュンキュン泣きそうで、おかしく、悲しく、せつなかった。
この余韻をこわしたくなくてどこにも寄らずまっすぐ帰った。
帰宅すると夫が二階から降りてきた。
「どうだった?」
「よかった」
「早かったね、どこか寄ってきてよかったのに」
「うん。いいの」
すると夫がつつっとこちらに歩み寄って私の顔を覗き込んだ。
「ごめんな。朝の。週末一緒に行きたかったんだな。ごめんな。忙しくて」
いや。そこまでのことでは。
「うん、いいのいいの」
「ごめんな」
すっかり色男気分で労られた。
あの映画は一人でしみじみ観るのが正解だった。
サバカン SABAKAN